動画配信が当たり前のものとなっていくことに呼応して、特に米国で大きな議論を巻き起こしつつあるのが「ネットワーク中立性」の問題だ。近年の文脈における「ネットワーク中立性」は「主にインターネットにおいて、あらゆるトラフィックが何らかの特別な扱いを受けることなく、平等に伝送が行われるべきである」という意味合いで議論されている。

 2014年に起きた事件を振り返ってみよう。

 1月:米国ISP(インターネット・サービス・プロバイダー)の米ベライゾン・ワイヤレスがFCC(連邦通信委員会)を相手取った訴訟に勝訴。FCCがISPに対してネットワーク中立性を規定するOpen Internet Orderは無効とされた

 5月:FCCは1月の判決を受け、Net Neutrality Ruleの素案を発表。ISPに対してファストレーン(特定のトラフィックを優先的に流すサービス)を認める内容を示した

 6月~7月:FCCの新ルール案に対して400万件を超えるコメントが集中。ベンチャー経営者、投資家などを中心に多くの関係者からの批判が噴出

 11月:米オバマ大統領は「ネットワーク中立性を保つための最大限の努力を行うべきで、ISPはFCCによって適切に規制されるべきである」との旨の提言を行った

 1年を通して、ネットワーク中立性をめぐるニュースを数多く目にする機会のあった方々も多いのではないだろうか。

動画配信市場の立ち上がりとネットワーク中立性

 ネットワーク中立性の議論は昨今、急に起こり始めた話ではない。2005年のVoIPトラフィックをめぐる規制議論、2007年ごろから数年にわたって続いたP2Pトラフィックをめぐる規制議論につづき、今回で3回目だ。いずれのタイミングでも、ISPの設備投資を超えるペースで大容量のトラフィックが発生し、かつそれが成長し続けているという点で共通していた。特に今回は、北米のトラフィックの30%超をNetflixの動画配信トラフィックが占めるという事態が引き金となった。

 Netflixは自社のサービス拡充と、顧客単価の向上を狙って、HD画質に加え、4Kの配信もスタートさせるなど、要求する通信速度は年々高まっていくばかり。いわば、Netflixの超大トラフィックに悲鳴を上げたISPが、Netflixトラフィックを制限する、あるいは「有料のNetflixファストレーン」を設定するなどの対策が、ネットワーク中立性に抵触することになる、という構図だ。