前回は、企業の経営層がせっかく立てた「戦略」の実に8割が実行されずに「ゴミ」と化している実情を紹介しました。また、その原因として、筆者が長年のコンサルティング経験を基に導き出した答えが(1)伝達率の問題(2)変換の問題(3)言語の問題、にあることを説明し、(1)の伝達率の問題について詳しく解説しました。第2回となる今回は、残りの二つについて見ていきます。

(2)変換の問題

 せっかく立てた戦略が実行されない二つめの要因がこの変換の問題です。前回説明したように、戦略とは「意図」ですから、そのままでは実行できません。このため、経営層が打ち出した戦略は、各階層ごとに実行可能な形の何かへとさまざまな「変換」が行なわれることになります。

 幹部は、経営層の言葉を「方針」に変換して管理職に伝えます。方針を伝えられた管理職は、「何を」「いくらで」「いつまでに」といったレベルの「実現目標」に変換して、現場リーダーに向けて「プロジェクト要求」として伝えます。現場リーダーはこの要求を「実行計画」に変換してメンバーに伝え、メンバーはそれを「作業(タスク)」に変換するという具合です。

 これだけ多くの変換が階層ごとに行われるわけですから、どこかで「変換ミス」が起こらないとも限りません。むしろ、変換ミスが起こらない方がまれでしょう。

 例えば、経営層から「顧客満足度を高めることで競合他社との差異化を図る」という戦略が打ち出されたとしましょう。それを聞いた幹部は管理職に対して「今期の方針は『顧客満足度の向上』だ」と方針を伝えます。

 この方針を受けて管理職は、現場リーダーに対して「顧客満足度向上プログラム」を実施するように指示します。現場リーダーは「顧客満足度を高めるには、まず他社を知ることが大切だ。ベンチマーク調査を実施して、他社に負けているところをまず埋めることから始めよう」とプロジェクトに着手します。