現代のシステム構築・導入プロジェクトの多くは、前例がない、あるいは経験がないといった、先の見えない「暗闇プロジェクト」と言える。この連載では、暗闇プロジェクトを任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。今回は前回に続いて、プロジェクト運営に関するセオリーを取り上げる。

セオリー3
「見える化」は
ほどほどに

 セオリーの三つめは、「見える化」はほどほどに、である。プロジェクト運営で見える化が重要だとよく言われる。とはいえ、何でもドキュメントにすればよいわけではない。目的を明確にした上で、見える化のメリハリを付ける必要がある。それを怠ったのがベンチャー企業B社だ。

 B社はこれまで「アジャイル開発だから」との理由で、ドキュメントをほとんど作成していなかった。システムに関する知識が属人化している状況を問題視したB社の経営層は、開発標準を整備するよう現場に指示。半年後には大企業顔負けの詳細な開発規約やプロセス、仕様を整備した。開発プロジェクトは今後、この標準にのっとって進めるルールとした。

 B社はさっそく、1億円規模の開発プロジェクトにこの標準を適用した。標準に従うと、管理ドキュメントだけで50種類以上を作成しなければならない。標準整備後の最初のプロジェクトだったので、マネジャーは「標準にきちんと基づいて進めるのが大切」と考えてプロジェクトを進めた。

 結果的に、現場のメンバーは終電の時間までドキュメントの作成に追われる羽目に陥った。「名ばかりアジャイル」にうんざりしていたメンバーは当初、計画駆動のきっちりとした進め方を歓迎していた。しかし、どれだけ意味があるか分からないドキュメントを作成する日々が続き、マネジャーへの信頼感もモチベーションも下がる一方だった。