現代のシステム構築・導入プロジェクトの多くは、前例がない、あるいは経験がないといった、先の見えない「暗闇プロジェクト」と言える。この連載では、暗闇プロジェクトを任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介する。今回は前回に続いて、合意形成に関するセオリーを取り上げる。

セオリー3
難しい合意形成は
曖昧に進める

 前の例のような1対1の対立でなく、「欲しい機能」や「予算」について複数のステークホルダーが異なる要求を出すケースもある。この場合、合意形成の難易度はより高まる。要求を出すのが“偉い人”の場合はなおさらだ。

 「ゴールの共有」「デシジョンツリー」「チェックリストを用いた代替案の抽出」「メリット・デメリット表」といった合意形成のテクニックは、あまり役立たない。現実には、なかなかきれいに当てはまらないものだ。

 こうした難しい合意形成については、あえて曖昧に進めるのも一つの方法である。これが三つめのセオリーとなる。本来なら、プロジェクトの初期段階で意見を調整して要求仕様を明確にすべきだが、細かな論点にこだわるあまり感情的な対立につながり、修復が困難になる恐れがある。

 当然、要件を曖昧なままにするリスクもある。そのリスクと、ステークホルダーが「ノー」と言うことでプロジェクトが止まるリスクを比較し、前者の方が小さければ「曖昧な合意のまま進める」という選択肢もある(図2)。

図2●プロジェクトリスクの大きさの比較
図2●プロジェクトリスクの大きさの比較
[画像のクリックで拡大表示]

 その際に、要求が食い違う部分を避けて総論レベルで合意形成をしておき、その事実を内外に示すのがポイントだ。これにより「後戻りはできない」という雰囲気を醸成し、妥協と譲歩の余地を生みだす。

 プロジェクトが進むにつれて各種の環境条件が変化し、妥協や譲歩の余地が大きくなることも多い。あえて合意を曖昧にしておく一方、課題解決の意思を持ち続けていれば、最後に解決の糸口が見つかるものだ。