前回(参考書を手当たり次第に手に取り、無視する)に続いて、先の見えない暗闇プロジェクトで企画・計画を進めるためのセオリーを紹介しよう。

セオリー1
有事に平時の計画を使うのは禁物

 U社のシステム構築プロジェクトは、当時としては先進的な取り組みだった。とはいえ平均より少し早い程度で、イノベーター理論でいう「アーリーマジョリティ」だった。業界の動きに目を光らせているU社の上層部は、「同業他社に比べ、かなり遅れを取っている」との意識を持っていた。

 上層部からプレッシャーを受け、システム部門は早くプロジェクトを開始して、本番稼働、サービス提供につなげようと焦った。後発なのに先行各社よりもサービスの内容が劣っているようでは格好がつかない。標準機能をひと通り実現した上で、本番稼働にこぎ着ける必要がある。

 通常のシステム開発は、「業務要件定義」「システム要件定義」「システム設計」「実装」という流れで進める。担当マネジャーもこの定石にのっとって計画を立てようとして、上司に大まかなマイルストンを確認した。すると驚くべき答えが返ってきた。「本番稼働は半年後。要件定義は1カ月で進めてほしい」。

 要件定義だけでも、最低3、4カ月はかかると踏んでいたマネジャーにとって、このスケジュールは論外である。要件定義を1カ月でこなすのが必達要件であると言われ、マネジャーはプロジェクトがデスマーチとなることを覚悟した。

 問題は、マネジャーがあくまでも定石にこだわったことだ。システムの規模から考えると、上司が提示したマイルストンはどう考えても非常識なものだ。本来なら、その時点で定石にのっとった計画は諦めなければならない。

 ところがマネジャーは「プロジェクトは全て定石にのっとって進めるべき」との強い信念を抱いていた。実際には、計画駆動型の進め方しか知らなかったというのが本当のところだ。結果的にはプロジェクトは炎上し、本番稼働までに24カ月を要した。