この連載では、先が見えない「暗闇プロジェクト」を任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。

 プロジェクトを進める際に一筋縄でいかないのが、顧客のコンセンサスをいかに取っていくかだ。顧客企業といっても様々な部署や人が関わり、それぞれ意見が異なるケースが多い。今回はそんな場合に役立つ三つのセオリーを見ていく。

セオリー1
「顧客」は一枚板ではない、と認識する

 CRM(顧客関係管理)という言葉がまだ一般的になる前の話である。ユーザー企業P社では「顧客サービスの向上」が喫緊の課題となっており、営業支援システムの開発が一番の目玉施策だった。顧客データベースを構築して営業情報を共有することで組織全体で現場ノウハウを蓄積し、顧客サービスの向上につなげていくのが狙いである。

 ただ、このシステムを実現しようとすると、営業担当者に対してデータ入力など余計な負荷をかけることになる。営業部門の上層部はその点を気にしていて、「システムの詳細な仕様は、現場の声をよく聞いて決めてほしい」とシステム部門に要求した。トップダウンで仕様を決めて現場に押しつけるのではなく、皆で一緒に作り上げたという形にしてほしいということだ。

 システム開発プロジェクトが始まり、システム部門は要請通りに現場の営業担当にアプローチした。ところが現場の反応は冷たく、上からのお達しがあったので仕方なくインタビューに応じているという感じだ。

 当然ながら、要求定義の作業は質も量も揃わない。具体的な機能のサンプルを提示して相談しても、多くは「使えない」「できない」「そんな時間はない」といった否定的な意見に終始した。システム部門の担当者が「では、どうすればよいのか」「このように改良すれば使い勝手がよくなるか」などと尋ねても、「分からない」「それはそっちで考えてほしい」などと、つれない回答しか返ってこない。