この連載では、先が見えない「暗闇プロジェクト」を任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。

 前回(システム要求を出すのは「会社」ではなく「個人」)は、顧客すなわちユーザー企業との関係作りに関するセオリーを紹介した。今回はその続きである。ベンダーとユーザー企業との関係に加えて、ユーザー企業内の関係をどう作っていけばよいかを見ていく。

セオリー1
「理系」と「文系」は話が合わない点に要注意

 ユーザー企業大手のA社では、これまで社内の各業務部門が独自にシステムを構築するのが当たり前だった。ユーザーインタフェースからコード体系まで、あらゆるものを個別に設計しており、システム間の相互運用性は皆無に近い。

 さすがにA社内でも、このような状況を問題視するようになり、システムを企画・構築する上で標準化すべき領域については、システム部門に一括して権限を集約することになった。各部門から不満の声も上がったが、全社レベルの標準化は世の流れでもあり、この方針を採ることに決まった。

 このタイミングでシステム部門長に着任したS氏はさっそく、苦労を味わうことになる。標準化については会社の方針が固まり、必要な権限も与えられていたが、ルールを変えただけで、現実はそう簡単には変わらない。

 より大きな問題は、ビッグデータに対する期待と圧力が高まっていたことだ。経営層はS氏に対し、「各部門が蓄積した様々な販売や顧客のデータを、マーケティングに活用できるよう統合せよ」と、矢継ぎ早に指示が来るようになった。

 「マーケティングか」とS氏はため息をつく。バリバリのエンジニア出身のS氏は、システム間の連携やデータ統合といったエンジニアリング領域は大の得意。一方で、曖昧模糊とした要件定義の領域は得意ではなく、システム部門長として口にはできないが興味もなかった。そんなS氏にとって、マーケティングはさらによく分からない世界である。