先が見えない暗闇プロジェクトでは絶えず問題が発生するだけでなく、解決が容易でない問題が多いのがマネジャーの悩みの種だ。正攻法で立ち向かおうとすると、かえって収拾がつかなくなる。こうした問題への「暗闇」ならではの対処法を紹介しよう。

セオリー1
「問題である」と軽々しくラべリングするのは厳禁

 「このままではやばい」。マネジャーのA氏が率いるプロジェクトチーム内に緊迫したムードが漂う。

 顧客企業から納品物の検収を受けるためには先方の理事会での承認が必要であり、その前に理事会が依頼した外部の監査機関の監査に合格しなければならない。検収予定日や理事会の日程、監査に要する期間を考えるとプロジェクトの進行状況は芳しいとは言えない。監査人の質問への対応や納品物の修正などを考慮すると、既に赤信号が灯っており、このままでは予定日に検収印をもらえない可能性がある。

「今回は切り抜けられる」

 Aマネジャーはチームメンバーに焦っている様子を見せているが、実はそれほど慌てていない。状況は厳しいが、「今回は切り抜けられる」と踏んでいるのだ。

 顧客企業の社風や、課長、主任、担当者それぞれの能力や性格、気にするポイント、指摘しがちな項目。彼らとのこれまでのコミュニケーションの内容と今の状況。誰が何を気にするか、何を黙認するかといった監査人の性格や指摘のクセ──。これらを踏まえて、「納品物が間に合わない」「監査が通らない」といった状況に陥った場合に切り抜けるシナリオをシミュレーションしていたのだ。

 その結果、Aマネジャーはこの問題を切り抜けられるとの確信を抱いている。明確な理由や理屈はないが、100%に近い自信がある。心配するメンバーは何度も「大丈夫でしょうか?」と尋ねてくるが、Aマネジャーは「いいから自分の仕事を頑張れ」と答える。

 Aマネジャーはあえてこの問題を課題一覧に載せていない。メンバーには「問題が大きすぎて、課題一覧に記述する問題の粒度に合わない」と説明している。実際には、切り抜けられるとの勘を説明するのが難しいので、あえて公にしていないのだ。