この連載では、先が見えない「暗闇プロジェクト」を任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。前回(「正しい解決策だから受け入れられる」は子供の考え)は「暗闇」の状態で提案をうまく通すためのテクニックを紹介した。今回も提案に関する二つのセオリーを見ていこう。

セオリー1
選ばれるのは正しい提案ではなく、「理解できる」提案

 ユーザー企業のQ社は、複数の部門ごとに別々に構築していたシステムを一本化し、統合データベースを構築するプロジェクトを立ち上げた。早々にRFP(提案依頼書)をまとめ、ベンダー調達のコンペティションを実施した。

 本来であれば部課長クラスが審査委員になるのだが、緊急事態が発生したため、ある利用部門の部長が欠席せざるを得なくなった。そこでこの部門から、若手のS氏が代打で参加することになった。S氏は日ごろから上司の信頼が厚く、部内でシステムに最も詳しかった。

「どうしてA社なのですか?」

 コンペではまず、ベンダー各社が提出した提案書をチェックした。部長クラスでは詳細なチェックはできないので、各部門とも中堅クラスが担当していた。

 S氏が確認したところ、どの会社も似たり寄ったりという印象だった。他の担当者の意見も同じで、提案書の比較では決定的な差がつかず、各社のプレゼンテーションを見て決定することとなった。

 S氏は、やる気満々である。周りの部長たちには詳細な技術面の評価はできないだろう。それができるのは自分だけだ。提案書の内容とプレゼン内容に矛盾はないか、実際に担当するプロジェクトマネジャーが自分の言葉でしゃべっているか、プレゼン専門要員ではないか、などプレゼンをしっかりチェックするつもりで臨んだ。