この連載では、先が見えない「暗闇プロジェクト」を任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。

 プロジェクトマネジメントでは、定量データに基づく管理が重要になる──。教科書の多くは、このように説明している。だが、暗闇プロジェクトでは、こうしたデータにこだわることがかえって足を引っ張るケースが少なくない。

 「数字」に振り回されずに、現場での調査結果をどのように整理・分析すればよいのか。今回と次回で、この観点から五つのセオリーを紹介する。

セオリー1
「客観的なデータ」は幻想とみなす

 顧客管理用パッケージソフトの導入を決めたA社。パッケージをカスタマイズせずに導入すれば安く済むことは自覚していたものの、結果的に「カスタマイズで柔軟に対応できる」点をアピールしたB社の製品を選んだ。A社の上層部が「顧客接点の品質」を自社の差別化ポイントとして掲げ、コンペの際も「多少金がかかっても、自社独自のサービスを大事にせよ」との方針で臨んだからだ。

「こういう優先順位で要望した覚えはない」

 要求定義の段階で、B社はA社の現場に対してヒアリングを実施し、A社のマネジャーは報告を定期的に受けていた。マネジャーはB社からの報告を見て、自分が感じる現場の印象や意見と若干ずれていると感じた。特に、以前から現場が要望していた機能が「要望一覧」に入っていない点に、強い違和感を覚えた。

 マネジャーはB社に対し、こう伝えると、B社の担当者は自信満々でヒアリング結果のデータを提示した。そこには機能ごとに「90%」「40%」などとある。各機能を現場の何%が要望しているかを示した数値だという。

 現場からの声を基にマネジャーが重要だと考えていた機能は「5%」で、「開発対象外」とのコメントが記されている。B社の担当者は「これが現場の本当の声です」と主張した。