現代のシステム構築・導入プロジェクトの多くは、前例がない、あるいは経験がないといった、先の見えない「暗闇プロジェクト」と言える。この連載では、暗闇プロジェクトを任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。今回は前回に続いて、ベンダーの姿勢に関するセオリーを取り上げる。

セオリー3
時には「持ち出し」で信頼を得る

 ベンダーとして、プロジェクトで赤字を出すのは当然避けたい。利益率もできるだけ高くしたいと考える。

 一方で、リスクの高い暗闇プロジェクトでは、顧客との信頼関係が欠かせない。ベンダー側の「持ち出し」となっても、信頼関係の構築を優先させたほうがよい場合もある。これが三つめのセオリーだ。

 ベンダーB社は、ユーザー企業C社向けのシステム構築プロジェクトを担当していた。国内事例のない、難しいハイリスク・ハイリターン型のプロジェクトだった。

 現場を預かるB社のマネジャーは、明らかにプロジェクトのスコープ外であり、顧客であるC社もそう認識している作業を、あえて実施した。例えば、契約外の要員追加や機器の購入を実施した場合も、C社に費用を請求せず、B社側で負担した。それも一度きりでなく、可能な限り行った。社内規程を外れる場合には、経営判断を仰いだ。

 この結果、B社側のプロジェクト利益率は、社内で問題視されるレベルにまで下がった。一方で、こうした態度を採ることでC社のキーパーソンから信頼を得て、難しい暗闇プロジェクトの運営が非常に楽になり、ハイリターンが期待できるようになった。

 スタート前から難航することが分かっているこのようなプロジェクトでは、ユーザー企業、ベンダーとも過剰なリスクヘッジに走りがちになる。例えば、ベンダー側はリスク軽減のため準委任契約を望むのに対し、「逃げられては困る」と考えるユーザー企業側は請負契約を望む。しかし互いに疑心暗鬼が生まれると、プロジェクトはうまく進まないケースが多い。

 プロジェクトを成功させるには、詳細なスコープ定義や計画よりも、キーパーソンとの信頼関係がカギを握る。その際に、肝になるのは行動だ。ただ、その行動が「当たり前」と受け止められてしまうと、こちらが望むような関係を築くことはできない。B社側の持ち出しになっても対応する、という手に出たのはこのためである。

 もちろん信頼関係は相互作用であり、こちらがどれほど真摯な態度を取っても、相手に通じない場合もある。この点を見極めていかないと効果が得られないので、注意が必要だ。