現代のシステム構築・導入プロジェクトの多くは、前例がない、あるいは経験がないといった、先の見えない「暗闇プロジェクト」と言える。この連載では、暗闇プロジェクトを任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。今回は前回に続いて、ユーザー対応に関するセオリーを取り上げる。

セオリー3
合理性は証明するのでなく
創作する

 「なぜその選択肢が優れていると言えるのか」。G社のIT部門はプロジェクト進捗会議で、利用部門の担当者からこう質問された。質問は想定していたものの、時間がなかったため準備が足りず、利用部門が納得できる説明はできなかった。結局、次回の会議で「目的」「目標値」「根拠のある判断項目とその基準」「複数の代替案」「代替案それぞれのメリット・デメリットの評価」といった項目について、データを基に合理性のあるモデルを作って説明しなければならなくなった。

 IT部門の担当者は、持ち帰った宿題に取り組もうとして、その作業が予想以上に難しいことに気づいた。合理的な説明の根拠となるデータが集まらず、ほとんど全ての項目が仮説や推測の域から出ないのである。説得力のあるロジックは作れるが、事実の裏付けが取れないわけだ。

 これでは「結論からスタートしているのか」と追及されたら「その通りです」と言わざるを得ない。しかも、それが半ば事実なので余計に始末が悪い。

 直感で正しいと分かっていても、他人に説明する際には論理性や合理性が求められる。ここで真面目に「事実の発掘」にとらわれすぎてはいけない。一定の労力(コスト)をかけたら、あとは合理性は証明するのでなく「創作する」ものと割り切る姿勢が大切になる。これがセオリーの三つめだ。

 実際のところ、現実は合理性を備えたモデルに当てはまるほど単純ではない。ただでさえリソースのやり繰りが厳しい暗闇プロジェクトで、事実だけに基づいてモデルを完成させるのはまず不可能である。真面目にデータを収集した結果、モデルに合わない事実ばかりが集まり、プロジェクトは一からやり直しになる、という事態にもつながりかねない。

 実証実験のプロジェクトでもない限り、通常はそこまでやる必要はない。合理性を説明するモデルは「コンセンサスを醸成するためのツール」と割り切って構築すべきである。