この連載では、先が見えないプロジェクトを「暗闇プロジェクト」を担当するマネジャーにとって参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。

 前回(上司の誤った判断は「正解ではない道」、あえて従うのも手)は、現場を知らない上司に振り回されないためのセオリーを紹介した。今回はその続きである。余計な思い込みを排し、経営層や上司とうまく付き合う二つのセオリーを見ていこう。

セオリー1
バッファーに上司のおもりにかかる工数も含めておく

 IT企業がユーザー企業と取り組むシステム構築プロジェクトの期間は短くても数カ月、長くなると数年に及ぶ。その間、IT企業の担当者が顧客の担当者と飲みに行く機会も増えてきて、個人的に親しくなることもよくある。

 IT企業に勤める若手のW氏は、あるプロジェクトで顧客の担当者であるY氏と親しくなった。仕事の受注者と発注者という関係であり、立場の違いから時に激論を交わすこともあった。しかし、年齢が近いこともあり、「互いに協力して、プロジェクトを成功に導いていこう」との意識を共有しつつ、強い信頼関係が結ばれていると互いに感じていた。

正論は通じず、いったん決めた約束を平気でくつがえす

 ある日、W氏はY氏と居酒屋でプロジェクトの今後について話し合っていた。酒も入っているので愚痴も出てくる。

Y氏「Wさんはいい先輩がいて、うらやましいですよ。うちの上司はあの通り、大変ですから」
W氏「いやあ、Yさんの上司にはいつも大変な目に遭わされていますよ。社内でもあんな調子なんですか」
Y氏「内部の人間の方がもっと大変ですよ。何だかんだ言っても、外の人に対しては最低限の常識を守っていますから。いや、守っていないかな、はははは。でも、あれでもまだマシですよ」

 Y氏の上司は、このプロジェクトのプロジェクトマネジャーを務めている。正論は通じないし、いったん決めた約束を平気でくつがえす。相手が顧客とはいえ、W氏もかなり手を焼いていた。

W氏「そうですか。それは大変ですね」
Y氏「Wさんには、これまで何回も筋の通らないお願いをしてきましたよね。裏では、上司がらみの都合がいろいろとあったのですよ。今、別のプロジェクトが並行して走っていて、そちらも上司が担当しているのですが、ベンダーさんを本気で怒らせてしまいましたから。部長まで出てくる事態になってしまって大変ですよ」
W氏「それでも、Yさんの上司の方は社内では安泰なのですか?」
Y氏「そこがね、会社っていろんな事情があるわけですよ…」