この連載では、先が見えないプロジェクトを「暗闇プロジェクト」を担当するマネジャーにとって参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。

 前回(エンジニアの常識はマネジャーには「非常識」、意識を変えないと地雷踏む)は、エンジニア出身の新任マネジャーが陥りやすい注意点を説明した。今回は新任あるいは他の会社から転職したマネジャーが押さえておきたい二つのセオリーを見ていく。

セオリー1
「顧客満足度」を自分なりに解釈してメンバーに伝える

 IT企業N社のトップが掲げるスローガンは「顧客満足第一」。新年のメッセージなど、事あるたびに顧客満足第一を強調する。当然、部長もこのスローガンをよく口にする。

 こうしたスローガンは通常、部長止まりで、現場のマネジャーが真に受けて実際に行動するケースは少ない。顧客満足第一を徹底して実践すると大赤字になり、上から雷が落ちるのが分かりきっているからだ。ところが真面目な若手マネジャーのD氏は、このスローガンを忠実に実践しようと努めた。

「収支は絶対に大丈夫なのだろうな?」

 システム開発プロジェクトで、顧客からの要求は多岐にわたる。ユーザーインタフェースの軽微な修正など、半人日程度の作業で済む要求であれば、当然対応する。

 しかし、サブシステムを新たに構築するといった大きな機能追加ではあれば、現場レベルで判断せず、承認を仰ぐのが普通だ。ところがD氏はこのレベルの機能追加であっても、現場の作業状況や残りの工期を見て「いける」と判断し、二つ返事で引き受けた。

 D氏はこの件について、社内のプロジェクト報告会議で事後承諾の形で部長に報告した。その際に「顧客からは大変感謝されました」と付け加えた。

 事前に全く話を聞いていなかった部長は多少驚いた顔をしながら、「プロジェクトの収支は絶対に大丈夫なのだろうな?」とD氏に何度も念を押した。

 D氏はこの言葉に若干戸惑った。自分としては、顧客満足第一というトップの方針に忠実に従って判断したつもりだ。「お褒めの言葉」をもらえるかも、との期待も抱いていた。ところが、部長の口から出てくるのは数字の話だけ。D氏は「大丈夫です」と答えたが、部長は渋い表情のままだ。