この連載では、先が見えない「暗闇プロジェクト」を任された場合に参考になりそうなヒントやノウハウを紹介している。
プロジェクトマネジメントの世界には、様々な方法論やフレームワークが存在する。これらの使い方を誤ると、「暗闇」はかえって混乱を招く。そうならないための三つのセオリーを紹介する。
セオリー1
美しい理論は実績ゼロでも採用される点に要注意
かつて、多くのIT企業が要求定義をはじめとするソフトウエア開発の上流工程に関する工学的手法の確立を真剣に模索していた時期があった。CMM(能力成熟度モデル)/CMMI(同統合)が流行ったのは一つの表れだ。「レベルいくつを獲得した」ということを前面に押し出してPRする企業が目立った。
現場の多くは、こうした取り組みを眉唾ものとして眺めていたが、続発するソフトウエア開発に関わる問題への対策に頭を悩ませていた上層部はこぞって飛びついた。本気でこれらを「解」「ベストプラクティス」だと信じ込んでいた人も相当数いたようだ。
実際のところ、CMMが大いに持ち上げられていた当時も、有効性を確認できるだけの実証データは存在していなかった(公にされていない個別の検証データはあったかもしれない)。要は、机上の世界に過ぎなかった。
にもかかわらず、その有効性があたかも事実であるかのように通用していた。美しく体系的に整理されたノウハウは、理屈好きで論理的な人々を引きつけ、「これが正解」だと思い込ませる。思い込みであるがゆえに、実証などは必要としない。
役に立たない理論が現場に押し込まれる
美しい理論は、実績ゼロでも信用される。効果が現場で証明されていなくても、上層部が理屈で納得できれば採用される。この点に要注意というのがセオリーの一つめだ(図1)。