「あなたにも発注者としての責任があります」。ユーザー企業のシステム部長やIT部員にそんな話をすると、怪訝な顔をされることがある。今では、「俺は客だ」とITベンダーに無理難題を要求する“モンスターカスタマー”はあまり見かけなくなったとはいえ、依然として「発注者責任」に思い至らない人は多い。

 システム開発を外注する場合、発注のQCD(品質、コスト、期日)が問われる。今回取り上げるC(コスト)、つまりITベンダーに支払う料金は、前回に解説した発注のQに劣らず重要である。商取引が価値の等価交換である以上、とにかく買い叩けといった態度はビジネスパーソンとして失格であり、結果としてプロジェクトの失敗につながることを肝に銘じるべきである。

外注コスト削減が陥る罠

 料金の問題は、できるだけ安くしたいユーザー企業と、できるだけ高い報酬を得たいITベンダーの利害が正面からぶつかるうえに、要件定義の精度の問題とも密接に絡む。ユーザー企業が商談で料金の引き下げを求めるのは当然としても、駆け引きなどで度を過ぎると、逆に大幅なコストアップなど思わぬ事態に直面することになる。

 自社の技術力に強い自負を持つITベンダーの営業部長は、ため息混じりにこんな話をする。「大手ユーザーの基幹システムのコンペで、競合相手が当社の提示額の2分の1の料金を出してきた。自分たちの料金の合理性を説明し、IT部門の担当者はわかってくれたはずだが、利用部門の意向からか安値のベンダーを選定した。案の定、プロジェクトは頓挫し、結局、我々が提示した額以上の開発費を費やすことになったようだ」。

 外注費を下げるのは、ユーザー企業として当然の行為である。しかし、要件定義能力やプロジェクトマネジメント能力もないのに安値を追うと、しっぺ返しを食うことになる。例えばコンペを実施する際、要件定義能力に乏しく、まともなRFP(提案依頼書)が書けないユーザー企業の中には、特定のITベンダーに「御社に発注するから」と言って提案書を書かせ、その提案書をコピペしてRFPを作ってコンペを行う企業が後を絶たない。