モバイル化によって劇的に進展するのが「パーソナル化」と「オープン化」である。パーソナル化は製品やサービスの提供の軸足を「機能」から「経験」へと移し、オープン化はこれまで自前主義で閉鎖的だった大企業に、そこからの脱却を促す。ビジネス環境が激変する中、そこで生き残るための考え方がデザイン思考である。

 今回は、顧客にサービスを提供する企業の視点から、これからのモバイル社会における変化のポイント、その中で新しい価値を生み続けるために求められる企業や社員が身に付けるべきスキルについて解説する。

 情報システム部門の中堅SEであるA氏。経営層や上司のシステム部長、他部門の事業部長の依頼を受け、モバイルがビジネスに与えるインパクトや、企業として自分たちがどのように関わっていくべきかについて考えてきた。これまでの検討を踏まえ、A氏は考えをめぐらせた。「結局のところ、モバイル化で今後のビジネス環境がどのように変わっていくのだろうか」

圧倒的なパーソナライゼーション

 一つはモバイル化によって格段に「個人」にフォーカスできるようになる点だ。これまで製品やサービスを生み出す際は、まずは対象となる市場を分析して課題を抽出。自社の強みと弱みを踏まえて市場で狙うべきポジショニングを定めるという一連の課題解決型アプローチが取られた。その背景には、大きく成長する市場を狙うことが長らく正しいと考えられてきたことに加え、市場をマクロ的に見る以外に方法がなかったという側面もある。