UXという言葉は90年代からデザインの分野ではよく使われていた。それがどうして今重要視されているのだろうか。
顧客の時代の到来:アップルの例
図2は、2011年の「Service Design Network Global Conference」の基調講演で提示された時代背景を表す年表である。時代のそれぞれの段階により、産業において重視されてきた要素は変化している。
インターネットの普及によって顧客は「自分に合わせたもの」を選択することが容易になった。そして、それを供給するためのニッチな事業を行う、いわゆる「ロングテール型」ビジネスも同時に普及し、社会は「顧客の時代」を迎えている。こういった時代背景に伴い、特に製造業に分類される企業が事業の「サービス化」を図っている。
分かりやすいのは、米アップルの「iPod」だろう。iPodは製品に先立ち、「iTunes」という「音楽を管理し、楽しむため」のソフトウエアを用意し無償で配布した。これによって、iPodを購入した顧客はCDから音楽を取り入れてiPodに移し、音楽を楽しみやすくなった。その後アップルは「iTunes Store」(当初はiTunes Music Store)の開設により、CDからではなく直接音楽を購入できるようにした。
アップルは単にiPodという製品を販売するのではなく、「音楽を楽しむ生活」をサービスとして提供し、そしてそれが顧客に評価されてビジネスとしても成功しているのである。