ユーザーエクスペリエンス(体験)という言葉が広く聞かれるようになってきた。特にWebデザインやマーケティングの記事の中では、この言葉を見ない日はない。半ば“バズワード”化しているとも言えるが、多くの場合、UXという言葉の真意や可能性を取り違えている。本記事では、様々な観点からUXの本質を考える。

 まず、多くの記事や講演などで見られる「UI/UX」という表現から取り上げてみたい。

UIは機能、UXは結果

 UI/UXとは、もちろん、User Interface/User eXperience(ユーザーインタフェース/ユーザーエクスペリエンス)の省略形だが、多くの記事で「すぐれたUI/UXデザイン事例」「UI/UX講座」などの表現が用いられている。いずれも「ユーザー」という言葉が使われているため、共通にくくっているわけだが、実はこの表現によっていくつかの観点で誤解が生まれている。

 そもそも、UIとは、利用者とシステムとで情報などをやり取りするための「接点」のこと。より対象を明確にして、HMI(ヒューマン・マシン・インタフェース/Human Machine Interface)と記述されることもある。また、Webなどの画面インタフェースについては、GUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース/Graphical User Interface)とも表現される。

 これに対して、UXとは「ユーザーが何を体験するか」の観点を指し、ユーザーに与えられる結果を問題にしている。同じユーザー観点ではありながら、UIとは機能のことを指し、UXとは結果のことを指す。この点が大きな違いとなる。

UIは「一時的UX」の要素

 この「ユーザーが得られる結果」の観点を考えたとき、一番大きなポイントは「ユーザーが受ける経験はUIによるものだけではない」という点である。これはある意味当然のことであり、そもそも多くの場合、人はUIを使いたいがためにそのシステムを使うのではなく、そのシステムを使う目的の遂行のためにUIを使っている。

 UXの定義として一つの指針となるものに「UX白書」が挙げられる。ここでのUXの定義を紹介する(図1)。この図ではUXの構成要素として、「予期的」「一時的」「エピソード」「累積的」の四つを挙げている。例えば、店舗での体験や製品を利用する体験など、コンピュータを使ったシステムに限らず、この四つの観点は成立する。

図1●四つの要素で構成
図1●四つの要素で構成
UX白書によるUXの要素
出典:UX白書(有志団体hcdvalueによる日本語翻訳版)、原著(User Experience White Paper
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 いわゆる「UI」は、この図でいうところの「一時的UX」を構成する要素である。むしろUXを規定する要素としては、「そのサービスはそもそも何ができるのか」といった期待であるとか、「サービスによって実現できたこと」という結果の要因も大きい。

 例えば、ECサイトでのUXを考えたとき、操作による体験要素はもちろんあるが、「商品在庫がどの程度充実しているのか」「価格は安いのか」「支払いは信頼できるのか」「配送はスムーズか」といった点もそのECサイトを評価するための要因となる。