(撮影:松村 太郎)
(撮影:松村 太郎)
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 前回は、「Apple Watch」の現状について触れた。ただ、見出しではネガティブなニュアンスが強く、誤解を与えてしまったかもしれない。

 少し補足すると、米アップルは、「Apple Store」でApple Watchを試着できる体験の場を作り、価格を下げ、バンドを増やしている。機能向上以上に、身につける習慣を作ることについて、時間をかけて取り組んでいる。

 2016年の市場の停滞は、Apple Watchに限らず、スマートフォンを含む個人向けの各種デバイスについて指摘されていることだ。Apple Watchの良さの伝わりにくさだけに起因するものではないと考えている。

 ただし現在は、Apple Watchの体験を伝える段階が終わっておらず、自律的な成長を描けずにいることも確かだ。この壁を乗り越える「何か」が登場すること。Appleからすれば、その「何か」を発見することが、これからのスマートウオッチ普及の鍵となる。

壁を乗り越えさせる「何か」が必要

 その「何か」について、前回の最後で、コミュニケーション系のアプリに対する期待を述べた。

 手首でのコミュニケーションは、割り込まれる前にやっていた操作を妨げない。自分がより主体的に行動を選択できる感覚があり、便利だ。ただし、こうしたアプリだけでApple Watchがはやるとは考えにくい。

 プロダクトやアプリ、オンラインサービスの普及時には、よく「ネットワークの外部性」が働くと言われる。だが、単に購入・加入して使うだけの他製品と違い、Apple Watchのように毎日身に着ける極めてパーソナルな製品については、ネットワークの外部性は働かないと筆者は考えている。

 ネットワークの外部性とは、電話などのサービスの普及時において、加入者が増えれば増えるほど、1加入者当たりの便益・利便性が拡大するという法則だ。最初期の加入者が少ない時期は加入者にとって利便性が低いが、閾値を超えると利便性も急激に高まり、一気に普及が進む効果である。