これからの社会においてICT活用が一段と進むとみられる分野の一つに、社会インフラなどの保守・メンテナンス業務がある。今後は、各種のインフラや施設・設備そのものの老朽化と同時に、超高齢化、そして人口減少が進んでいく。その中で、保守・メンテナンス作業を効率化させるためのICTは、いっそう重要度を増すはずだ。

 保守・メンテナンス作業の効率化といっても、リモート監視、現場での検査・入力作業の支援など、方法はいくつかある。今回はこうしたもののうち、目視が必要でリモート監視だけでは済まない領域に向けたソリューションの一つを紹介する。拡張現実(AR:Augmented Reality)を応用するもので、タブレット端末などのカメラを通して保守対象の設備を見ると、映像に重ねて申し送り事項などが表示される仕組みである(図1)。もちろん、次の担当者への申し送り事項を入力することもできる。

図1●AR(拡張現実)を利用し、アプリで写した画面に保守/メンテナンス関連情報を重ねて表示
図1●AR(拡張現実)を利用し、アプリで写した画面に保守/メンテナンス関連情報を重ねて表示
写真は富士通沼津工場の施設管理に利用しているもの。同工場内では、空調のために使う冷凍機の管理に、同システムを利用している。
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カギは保守対象設備の“位置”情報

 ARソリューションを開発している富士通は、自社の沼津工場で、空調設備の一部の保守作業にARを活用している。このほか、例えば浄水場の「ろ過設備」「ろ過の過程で発生した汚泥の処理設備」の製造・維持管理などを手掛けるメタウォーターは、浄水場設備の保守・メンテナンス用に、タブレット端末とARを活用しようとしている。

 鍵になるのは、“設備の位置(設置場所)”の情報である。それぞれの設備に、位置情報を登録した「ARマーカー」を貼り付ける。ARマーカーはQRコードに似たコードだが、撮影時の手ぶれ、暗い場所、反射がある明るい場所、対象物まで1メートル以上の距離がある場所などでも支障なく使えるように作られている。