企業システム以外の分野、つまり消費者を含めた一般の社会に浸透しているICTの代表格は、インターネット、スマートフォンだろう。ただ最近は、日常生活ではあまり目にしない領域でも、ICT活用が進んできている。本コラムでは、そうした社会を支えるICTを紹介する。今回は、新たな電力関連サービスと、そのための新技術だ。

 NTTのネットワーク基盤技術研究所が2013年3月から夏までの予定で、同社の社宅において、ある実証実験を進めている。電力使用量が増え、需要が供給量を超えそうになった時に、電力事業者側から需要家(消費者)に使用抑制を働きかけるなどして電力消費を制御する、いわゆる「デマンドレスポンス」(DR)の実験である。

 DRは、米国など海外の一部地域では既に、電力会社と需要家を仲介するサービス事業者から提供されている。代表的な事業者には、主に企業と契約を結び、電力需給調整を代行している米エナーノック(EnerNOC)や米コンバージがある。ユーザー企業はサービス料金を支払う必要があるが、電力使用量を抑えることで電力会社から得られるインセンティブと、節電による電力料金の圧縮を見込める。

 国内では2012年に経済産業省の支援を受けて、デマンドレスポンスの事業者となるBEMS(Building Energy Management System)アグリゲーターが登場。さらに2016年度頃に低圧電力が自由化されるとみられており、そうなれば、住宅市場に向けたDRサービスも登場する可能性がある。

 もう一つ、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの広がりも関係している。電力事業者以外から供給される電力は、天候などの影響を受けるため、供給量が必ずしも安定しない。この不足分を電力事業者が補う場合などにも電力の供給量、需要量とのバランスを取る目的でDRの仕組みを使う。

 こうしたケースで需給バランスを見ながら自動的に需給調整するのが、自動DR(ADR)である。ここでICTの新技術が必要になる。アグリゲーターと需要家の間で制御情報などをやり取りするための「OpenADR」がそれだ。

 OpenADRは、既に仕様策定や製品への実装が進み始めている。Web関連技術の標準化を進めるOASISと、OpenADRアライアンスが仕様を策定。OpenADR 2.0aの仕様が公開されている。多数の需要家があるケースを想定し、多様なメッセージをやり取りできるようにした同2.0bも、近く仕様が固まる見込み。現在のところ、この目的で利用するプロトコルとしては最も有力な候補で、国内でも経済産業省の配下の検討会で、OpenADRを使った家電制御の実証が始まっている。冒頭で紹介したNTTの実証実験は、こうした動向を踏まえたもの。ほかに、富士通研究所もOpenADR 2.0aを実装し、米国でのイベントで相互接続デモを実施している。