ビッグデータの時代を迎え、デジタル空間と私たちが住むフィジカル空間の間で人が介在しない行き来が増えている。IoT(インターネット・オブ・シングス)によって機械が2つの空間をつなぐようになった。

 事業環境は以前と大きく異なり、企業の戦い方もそれを意識したものにする必要がある。戦略を立案する際、ビッグデータの主戦場を(1)デバイス・インフラ(接続地点)、(2)データ資源(権益)、(3)プラットフォーム(要衝)、(4)ユーザー体験(価値)の4つに分けて考えると理解しやすい。

 デバイス・インフラは、スマートフォンやセンサーなどのデバイス・インフラを販売、配布することだ。データ資源は、生成した利用者のデータを独占的に収集し、あたかも鉱山資源のように採掘・精製し、有益な情報を取り出すことを示す。プラットフォームは、価値あるデータの利用を他の企業にも許可し、互いに利益を得ること。そして、ユーザー体験は、利用者にとって価値あるユーザー体験を提供することを示す。

 この4つの主戦場は相互に関係している。強力なデバイスや魅力的なユーザー体験を提供すれば、価値あるデータ資源を獲得しやすい。たくさんのユーザーを持つプラットフォームには、様々なサービス事業者が集まり、データ資源の蓄積が進む。4つの主戦場を関連付け、それをどう企業競争力に結び付けるかというグランドストラテジーを企業は描く必要がある。

製造業にありがち既存製品をセンサー付きに

日本IBM グローバル・ビジネス・サービス パートナー ストラテジー & アナリティクス 日本リーダー 池田 和明 氏
日本IBM グローバル・ビジネス・サービス パートナー ストラテジー & アナリティクス 日本リーダー 池田 和明 氏

 製造業にありがちなビッグデータビジネスは、以前からある製品にセンサーを付けて販売するデバイス・インフラを1番目の主戦場にする戦略だ。その後は、2番目の主戦場であるデータ資源としてセンサーからデータを収集し、品質管理や故障予測などに活かす。3番目にプラットフォームとして利用履歴などのデータを小売店に提供し、販促や広告に活用する。

 これに対し、ビッグデータで成功するネット企業が最初に攻めるのは4番目の優れたユーザー体験だ。グーグルなら検索機能、アマゾン・ドット・コムなら「欲しいモノがすぐに届く」という体験の向上に注力する。次に、そのデータからユーザーの興味関心といった有用なデータの抽出でデータ資源を集め、プラットフォームとして広告やレコメンドなどに活かす。デバイス・インフラ、つまりグーグルならNexus、アマゾンならKindleの販売は最後の4番目だ。

 アップルの戦略はやや異なり、最初にiPod、iPhoneといったデバイス・インフラと、iTunes、App Storeによるユーザー体験をほぼ同時に攻めた。それによりユーザーのデータ資源を独占し、プラットフォームビジネスに展開した。とはいえ、最初にユーザー体験の向上を主戦場にするユーザーセントリック戦略を展開した点はグーグル、アマゾン、アップルに共通する。これがビッグデータビジネス成功の定石だ。

デジタル空間とフィジカル空間での戦い
デジタル空間とフィジカル空間での戦い
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オペレーションの進化も戦略立案とともに重要に

 ビッグデータ時代に4つの主戦場でどう戦うかという戦略立案と並び、データ活用によるオペレーションの進化も重要だ。データ活用には、有用なデータにアクセスするレベル1、データから有意義な洞察を得るレベル2、洞察をアクションに結び付けるレベル3という3つのレベルがある。この3つを横軸に置くと、縦軸にはマーケティング戦略、サプライチェーン・設備管理、人材管理、経理財務という機能領域が並ぶ。それぞれの領域でレベル1から3へサイクルを回すことで、オペレーションは進化する。

 一例を挙げれば、マーケティング領域では個人一人ひとりをとらえたマーケティング手法は絵に描いた餅だったが、ようやく現実のものになった。すでに小売業の中には会員カードを発行し、店舗とeコマースに訪れる顧客の統合的な把握に努めるレベル1、「誰が、いつ、何を買ったか」という購買履歴、eコマースでのユーザー行動を把握し、個人にひも付けたデータをもとにマーケティング施策を計画するレベル2、その施策を実行し消費者の反応を見ながら施策を改善するレベル3に達する企業もある。

 マーケティングに限らず、サプライチェーンの領域ではデータをもとに不良品の発生を即座に感知し、次工程に流さないといった仕組み、人材管理の領域ではデータを活用して従業員の最適配置や離職防止、経理財務の領域では収支の着地点を高精度で予測した最適な施策などのモデルケースが生まれている。

 日本IBMは今年、ビッグデータ活用の戦略策定からシステム基盤の構築、業務プロセスの変革まで包括的に支援する組織を設置した。米IBM社内やグローバルでの成功事例を活かし、日本企業のビッグデータ活用のお役に立ちたい。