「経営、戦略、コスト競争力で負けた」「技術では負けていなかった」。日本半導体産業の言い分は、この2点に集約されるという[湯之上、2009、40~41ページ]。そこには、技術とコストを別物とする考えがひそんでいる。マイクロンも韓国メーカーも、粗悪品を作ったのではない。市場が要求しないところを切り落とし、市場が望む安い製品の大量生産を実現したのである。そのためには高い技術力と経営力が要る。

日本の技術者は減価償却のコスト意識が低いのではないか

 製造コストを考えるうえで、日本の技術者は一般に、減価償却についてのコスト意識が低いのではないか、この思いを私は捨てられない。日本人技術者は、ランニング・コスト(変動費)は強く意識している。それに比べると資本コスト(固定費)は、技術の問題ではなく経営の問題としているような気がする。

 例えば日本の半導体技術者は歩留まり向上に熱心だ。しかし減価償却コストを勘定に入れれば、歩留まりを下げてでもスループット(単位時間当たりの処理量)を上げた方が、トータル・コストが安くなることがある。こういう方向に技術を用いることをせず、やみくもに歩留まりを上げようとする。私には、そう感じられてならない。

 韓国の半導体メーカーにスカウトされた日本人技術者は驚く。新しい半導体工場を立ち上げる際、韓国メーカーは、建屋が出来ると掃除もそうそうに装置の搬入を始めるという。すぐにクリーンルームをフル稼働し、高価なフィルターを使い捨てながら、一刻も早く製品を出荷しようとする。投下資本が寝ている時間を短くするためだ。そのためにはフィルターなどのランニング・コストには目をつぶる。

 日本の半導体メーカーなら、きれいに清掃した工場に、しずしずと装置を搬入し、ゆっくりと慣らし運転をしてから、半導体のテスト・ウエハーを流し始める。

 また日本の半導体メーカーは製造装置購入の際、微細化性能を重視する。これに対して韓国や台湾の半導体メーカーは、装置のスループットと稼働率を何より重視するという[湯之上、2009、160ページ]。

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