パソコン業界の水平分業、そしてその原点であるIBMシステム/360のモジュール化設計と互換性、これらをもたらしたおおもとは、プログラム内蔵方式そのものである。プログラム内蔵方式では、ハードウエアは汎用である(付録A参照)。システムを個性化し、付加価値を付けるのはソフトウエアだ。

 いろいろなソフトウエアを同じハードウエアで動かす。これがプログラム内蔵方式コンピュータの本質である。ハードウエアを最新の高性能なものに入れ替えたとき、開発済みの面白いソフトウエアが動かないのでは困る。こうしてシステム/360のモジュール化設計が登場した。言い方を変えると、ハードウエアとソフトウエアが、それぞれ独立に進歩する可能性がもたらされた。ただしそのためには、ハードウエアとソフトウエアの間のインタフェースを変えてはいけない。

 インタフェースさえ守るなら、ハードウエアとソフトウエアを別々の企業が担当して、分業することが可能になる。ハードウエアとソフトウエア、それぞれの内部も、インタフェース(連結ルール)を守れば、複数企業による分業が可能だ。こうしてシステム/360では、多数の企業がIBMコンピュータにつながる互換製品を作り出した。

ハードウエアとソフトウエアの分業が水平分業の出発点

 ただしシステム/360の場合は、IBMは互換機を意図的に導入したわけではない。ところがIBM‐PCの場合は、他社からのモジュール供給を最初から前提としている。それも、マイクロプロセッサとOSという中核モジュールの供給を、他社にあおぐ。

 IBM‐PCの場合は、脱工業化段階に達した米国と、工業化を目指す発展途上国の間のグローバルな分業が展開する。幸か不幸か日本のパソコン市場は、漢字という障壁に守られて鎖国状態となり、グローバル分業に参加するのが遅れる。不本意ながら開国されて分業に参加せざるを得なくなったときには、すでに国際的な存在感を失っていた。