要件定義の最終段階では、ステークホルダー同士で意見が対立しやすい。協力関係を維持しながら、合意形成を進めよう。本音を聞き出し、納得感を高め、合意を取り付けるワザを紹介する。

 要件定義の終盤では、検討会の参加者の総意をまとめる。それまで順調に協力者を増やしてきたとしても油断は禁物だ。最終合意を取ろうとすると、参加者の間で鋭く対立することがある。各参加者が「この案のまま決まるとどうなるだろう」とリアルに考えるからだ。協力的だった参加者が、一転して後ろ向きになることもある。

 ここでは、要件定義の終盤で重要な三つのテーマを取り上げる。

 一つめは「本音を聞き出す」。最終合意の直前、根回しする際に、本音を語ってもらうワザを紹介する。

 二つめが「納得感を高める」。ステークホルダーの意見が対立しやすい、要件を絞り込む際の工夫を紹介する。

 「確実に合意を取り付ける」。これが三つめのテーマだ。ここでは、立ち上げ時に作成したメモを生かす。以降で一つずつ紹介する。

本音を聞き出すワザ
まず自分の本音を吐き出す

 検討会で最終的な合意を取る前に、参加者が本当のところはどう考えているのかを確認しておきたい。本音を聞き出せていないと感じているのに、そのままにしてはいけない。

 本音を聞き出していない状態では、たとえ合意が取れたとしても、後工程になって反対意見が出てきかねない。最悪の場合、受け入れテストでひっくり返されることもある。そうならないように、各参加者の本音を聞き出し、しっかりと合意を固めておかなければならない。

 どうすれば本音を聞き出すことができるか。基本は、日ごろから約束を守るなどして信頼関係を築くことだろう。第一線のPMはそれに加えて以下のような工夫をしている。

 「自分がまず本音で話し、喜怒哀楽を素直に表現する」と話すのは、TISの音喜多 功氏だ。参加者が本音を隠しているのは、検討会の場が重苦しい雰囲気になっているからかもしれない。「PMである自分が本音を話せば、場が和んで参加者も本音を話してくれる」(音喜多氏)。

少人数の場でゆっくりと話す

 本音を聞く際の場所についても気を配る。「1対1で話せる場所を用意する」と言うのはアイ・ティ・フロンティアの櫻井良一氏だ。上司や部下、他部門の担当者に聞かれてはいけないことを隠している場合があるからだ。

 日立製作所の大森久永氏は「堂々とゆっくりと話すようにする」という。大森氏は本音を聞き出そうと意識するあまり、焦って早口になることがある。そうなると、相手は警戒し、口を閉ざしてしまう。「本音を聞くのは、後ろめたいことではない。プロジェクトを進めるために、必要なことだと自分で認識していれば、落ち着いて話せる」(大森氏)。

 伊藤忠テクノソリューションズの西脇智之氏は、PMである自分が聞くことにこだわらない。「相手にとって、自分以上に、本音を話しやすい人がいれば、その人に依頼して聞いてもらう」という。

 聞き出した本音の取り扱いには注意が必要だ。「基本的には秘匿。もし検討会の場で言っても構わないという場合でも、第三者の意見、もしくは自分の意見として話す」(西脇氏)。本音を話した参加者に万が一でも迷惑がかからないようにするためだ。

 社風や個人の性格も見極めよう。日本IBMの田中泰光氏は「事前に根回しをしておかないと怒られる場合もあれば、個別交渉や根回しは時間の無駄だと捉えて拒否するステークホルダーもいる」と指摘する。