医薬品メーカーの湧永製薬(大阪市)は、主力製品の滋養強壮剤「キヨーレオピン」の顧客管理システムを2013年1月に稼働させた。取引先の薬局3134店舗に端末を配布。顧客の購入情報を取得して、リピーターの獲得や販促企画に役立てている。約17万人の会員を集め、なかには「2人に1人がリピート購入する」という驚異的な実績を上げた店舗もある。

 だれの財布にも1枚は入っているポイントカード。買い物のたびにポイントがたまるので、顧客にとってはお得に買い物ができ、企業には顧客の属性や購買履歴を把握できるメリットがある。

 スーパー、家電量販店、コンビニエンスストア、アパレルなど、ポイントカードを発行する企業は多種多様だが、共通点は小売りであること。顧客と直接接触しないメーカーが、ポイントカードを発行することは、直営店舗を持つSPA(製造小売り)以外ではほとんど例が無い。

図1●3134店の薬局との連携で「キヨーレオピン」は約70億円を売り上げる(東京・台東の上野薬局)
図1●3134店の薬局との連携で「キヨーレオピン」は約70億円を売り上げる(東京・台東の上野薬局)
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 この常識を打ち破ったのが、湧永製薬だ。主力製品の滋養強壮剤「キヨーレオピン」の顧客に「ワクナガメンバーズカード」と呼ぶ会員カードを発行。取引先である薬局の店舗にハンディターミナル(HT)を貸与し、顧客がキヨーレオピンを購入する際に、商品と会員カードをスキャン。商品情報と顧客をひも付けた情報を、携帯電話回線を通じて、データセンターに吸い上げる仕組みを2013年1月に構築した。メーカーでありながら、エンドユーザーの購買データを直接入手しているのだ。

売り上げの3~4%を投じて営業改革

 1955年創業の湧永製薬は、売り上げの7割をキヨーレオピンが占める。カプセルに薬液を注ぐ独特の飲用方法と同様、ビジネスモデルもユニークだ。卸を介さず、薬局などの店舗に直接商品を販売。テレビCMも一切打たない。キヨーレオピンを取り扱う店舗には、勉強会などの参加を義務付け、商品知識を深めてもらう。顧客に商品特性や服用法などを十分に説明したうえで、購入してもらうコンサルティングセールスを徹底するためだ。

 この条件を受け入れない店舗には商品を販売しないので、大手のドラッグストアチェーンとの取引はほとんどない。取引先の大半は個人経営の薬局や小規模なドラッグチェーン。最も安いものでも3000円、2万円を超える高額商品もあるキヨーレオピンは、店舗にとっては利幅が大きく、魅力的な商材となる。

 このビジネスモデルで年商100億円まで成長したが、最近は競合が厳しくなり、売り上げは微減傾向にある。起死回生に導入したのが、「トレーサビリティーシステム」。その名の通り、商品の流通経路をたどって追跡するシステムだ。

図2●数字でみる湧永製薬のトレーサビリティーシステム
図2●数字でみる湧永製薬のトレーサビリティーシステム
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