日本教育工学協会(JAET)は2017年11月24日~25日、「第43回 全日本教育工学研究協議会全国大会 和歌山大会」を開催した。教育工学に関わる教師や研究者が集まり、ICT(情報通信技術)活用教育に関する研究発表会やシンポジウム、ワークショップなどが開かれた。同時に、JAETが認定している学校情報化先進校と学校情報化先進地域の表彰式も実施された。

文章力に差がある児童をアプリで分析

 研究発表会では121本の論文が発表され、参加者間で活発な議論が交わされた。その中から二つ紹介しよう。

 まず、三重県鈴鹿市教育委員会事務局 教育指導課の福島耕平氏ほか3名が発表した「テキスト作成過程を可視化するアプリ『ロンリー』のログ機能活用」。独自に作成した「iPad」向けのアプリを使い、文章を書くのが得意な児童と不得意な児童には、文章を書く過程でどのような違いがあるのかを分析した。

論理的な文章を書く力を育成するための教育用アプリ「ロンリー」。iOSデバイス向けに公開されている
論理的な文章を書く力を育成するための教育用アプリ「ロンリー」。iOSデバイス向けに公開されている
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 アプリ「ロンリー」は、あるテーマに関する文章を書いてまとめる際、書いた文章をブロックごとに簡単に入れ替えたり、画像に対する説明を書いたりできる。2017年4月から開発を始め、6月に完成した。

 ロンリーには教師向けのログ機能があり、児童の操作や文字入力の履歴が分かる。そのログを分析し、文章を書くのが得意な児童と、苦手な児童を比較したところ、得意な子は文章を上から順に書き、あとから段落を入れ替えることは少なかった。このことから、最初に文章全体の構成をある程度考えてから書いていると推測される。

 一方、文章を書くのが苦手な子は、文章全体の前や後ろを行ったり来たりしながら書く傾向があった。あとで段落を入れ替える操作も多かった。つまり、思いつくままに書けそうな内容から書いていると推測できる。

教師はアプリのログ機能を使うことで、児童がどんな順番で文章を書いたか、段落を入れ替えたかといった操作が分かる
教師はアプリのログ機能を使うことで、児童がどんな順番で文章を書いたか、段落を入れ替えたかといった操作が分かる
(出所:福島耕平氏の発表資料)
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文章を書くのが苦手な児童は、段落を行ったり来たりしながら書けそうなところから書いていく傾向が見られたという
文章を書くのが苦手な児童は、段落を行ったり来たりしながら書けそうなところから書いていく傾向が見られたという
(出所:福島耕平氏の発表資料)
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 福島氏によると、こうした分析結果を生かせば、児童ごとの文章力を把握でき、書くのが苦手な児童に対する支援の方法も検討できるという。この分科会で座長を務めた日本教育情報化振興会の赤堀侃司会長からは、「あらかじめ文章の組み立てができる能力は、数学やプログラミングにも通じるところがあるのではないか。こうした研究は応用ができそうだ」という指摘があった。