ICT(情報通信技術)を活用した教育に関する研究発表と交流のイベント「PCカンファレンス北海道2017」が、2017年10月28~29日に開催された。今回は「学習支援システムと教育の国際化」をテーマに掲げ、北海道室蘭市の室蘭工業大学を会場として、さまざまな研究成果の発表やワークショップが開かれた。主催はPCカンファレンス北海道2017実行委員会、共催はコンピュータ利用教育学会(CIEC)、全国大学生協連合会北海道ブロック。

 発表の中から、大学の取り組みについて二つ紹介しよう。まず特別講演では、室蘭工業大学 言語科学・国際交流ユニット ハグリー・エリック准教授が「LMSを使った足場かけを通した協同学習」と題して、インターネットを使った仮想留学体験「バーチャルエクスチェンジ」を紹介した。

英語嫌いの大学生に仮想留学体験を

 室蘭工業大学は、国立大学としては珍しく個別入学試験に英語の科目がないという。エリック氏は「そうした環境も影響して英語が嫌いな学生が多いため、何とかしたいという思いからバーチャルエクスチェンジを始めた」と話す。「外国語の習得には、外国人と交流するのが一番」(エリック氏)だが、実際に海外に行くのは費用も時間もかかる。代わりにインターネットを通じて学生同士の交流ができれば、留学したかのように外国語の習得に役立つという発想だ。

室蘭工業大学 ハグリー・エリック准教授。同大学で英語の2クラスを担当している
室蘭工業大学 ハグリー・エリック准教授。同大学で英語の2クラスを担当している
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 エリック氏が2004年にメーリングリストを通じて呼びかけたところ、南米コロンビア共和国の先生が呼応し、室蘭工業大学との間で交流が始まった。現在バーチャルエクスチェンジのプロジェクト(International Virtual Exchange Project)への参加者は学生が約3000人、教員が合計100人。これまでに国内では31の大学が参加したという。

International Virtual Exchange Projectに参加している学生は、コロンビア1200人、日本1200人、中国400人、台湾100人、スペイン60人などとなっている
International Virtual Exchange Projectに参加している学生は、コロンビア1200人、日本1200人、中国400人、台湾100人、スペイン60人などとなっている
(室蘭工業大学 ハグリー・エリック准教授の投影資料より)
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 実際のバーチャルエクスチェンジでは、オープンソースのLMS(学習管理システム)「Moodle」を利用してWebサイトを構築。学生はここに参加し、インターネットを介して海外の学生と交流する。例えば、英語で自己紹介をした動画を投稿すると、コロンビアの学生から返信が来てやり取りが始まるといった具合だ。

 絵や写真に興味を持っているある学生は、自分の好きなことについて海外の学生とコミュニケーションをするため、英語で一生懸命説明したおかげで、英語の能力が上がったという。外国語の習得だけでなく、「学生が日本の文化について説明をするために、文化自体についても調べるようになる効果がある」(エリック氏)。

 バーチャルエクスチェンジにもいくつかの課題はあるようだ。積極的にコミュニケーションしようとする学生は英語習得の効果が大きい一方で、そうでない学生は効果が小さい。また、学生同士のやり取りは全て教員がチェックするため、教員には相応の負担がかかる。