「暴力表現のあるビデオゲームの子どもへの販売は禁止すべきか?」
 「カジノは合法化すべきか?」──。

 賛否のあるテーマについて、肯定側・否定側に分かれて、互いに主張の理由と根拠を提示する「ディベート」。人間の論理思考力が試されるこの行為に、人工知能(AI)が挑んでいる。

 ディベートAIの研究から透けて見えるのは、本当に人を納得させる意見をAIに作らせようとすると、人間の論理思考力を再現するだけでは不十分、という事実だった。

自然言語処理の新領域に挑む

 日立製作所は2015年7月、大量の英文ニュース記事を解析し、賛成・反対の理由と根拠を英文で表現できるディベートAIを開発したと発表した(図1)。東北大学大学院情報科学研究科の協力を得て開発したもので、コンピュータとの論理的な対話を実現するための基礎技術になるという。

図1●日立製作所が開発したディベートAIのデモ
図1●日立製作所が開発したディベートAIのデモ
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 以下は、日立製作所が作成したディベートAI技術のデモ動画だ。「We should ban casinos(カジノは禁止すべき).」という議題を入力し、「Agree(肯定)」を指定すると、1分間ほど処理した後、「カジノを禁止すべき」理由について、過去の事例を交えながら2分間にわたって理路整然と意見を表明する(動画では1:03以降に説明が始まる)。

 一方、同じ議題で「Disagree(否定)」を指定すると、やはり1分間ほど処理した後、「カジノを禁止すべきでない」理由について2分間説明する。

写真1●日立製作所 研究開発本部 基礎研究センタ 主任研究員の柳井孝介氏
写真1●日立製作所 研究開発本部 基礎研究センタ 主任研究員の柳井孝介氏
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 このディベートAIの開発を担当したのは、同社 研究開発本部 基礎研究センタ 主任研究員の柳井孝介氏らのチーム(写真1)。2014年にディベートAIの研究を始めたという。「(クイズ番組でクイズ王を破ったWatsonのような)事実に関する質問に答える質問応答システムは、キーワード検索でもある程度代用できる。社会に役立つという点で、ディベートAIの方が優れていると考えた」(柳井氏)。