一時期より普及の勢いが弱まったとささやかれるタブレット(多機能携帯端末)。ただ法人用途に限ってみれば、「タブレット革命」は着実に進行中だ。2014年の国内市場規模は全体では前年比8%増の中、法人向けは56.7%増と絶好調。軽くて持ち歩きやすい賢い“板”は、単にパソコンの置き換え需要ばかりでなく、IT化が遅れていたシーンでも活躍の場を広げている。

 東京都区部を中心に地下鉄9路線を運営する東京メトロも、長年の悩みを米アップルiPadの導入で解決を試みた1社である。営業時間終了後に毎夜行うトンネルの維持管理に役立て、「作業効率アップ」と「安全の質の向上」の一石二鳥を実現している。

処理に3カ月もかかった「野帳とデジカメ」時代

写真●毎夜都内のどこかで東京メトロの作業員たちが、縁の下の力持ちとしてひび割れや漏水の影響でコンクリートに異常が起こっていないかチェックしている。
写真●毎夜都内のどこかで東京メトロの作業員たちが、縁の下の力持ちとしてひび割れや漏水の影響でコンクリートに異常が起こっていないかチェックしている。
 「よし、次の5メートルを調べる。作業車動かすぞ」――。7月下旬、深夜1時すぎの東京メトロ東西線。飯田橋駅と九段下駅の間では、作業員たちは特別仕立ての高所作業車に乗り、特別なハンマーで壁や天井を叩いていた。その打音に耳をそばだて、ひび割れや漏水の影響でコンクリートに異常が起こっていないか、念入りにトンネル内を点検していたのだ。

 数人が手にしていたのが、9.7型液晶を搭載したiPad Air。検査箇所ごとに補修もしくは補強が求められる「変状」と呼ぶ状態かどうかを調べ、その結果を入力。さらに投光器を当てた壁に向かってiPadをかざし、カメラ機能を使って当該箇所をパシャリと撮影していた。

 「従来は野帳と呼ぶ手書きのメモ用紙とデジタルカメラを組み合わせたアナログなやり方だった」。iPadの採用を指揮した土木課の三浦孝智課長補佐は過去をこう振り返る。検査結果を報告書の形で確認できるのは3カ月も先だったという。検査後にオフィスに戻りデータをパソコンに打ち込む必要があり、さらにそれを外部にデータ処理を依頼していたためだ。

 4月に導入したタブレットによって作業効率は大幅に向上した。作業員は現地で検査を開始したら、トンネル維持管理のための専用アプリを起動。すると前回の検査で変状があった箇所が一覧表示される。順番に現状との違いを照らし合わせながら目視や打音で検査を進めていく。変状が進んでいれば、必要に応じて補修や補強を行い、その都度情報を更新していく。