デジタルガレージは2016年7月、都内で自社主催イベント「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2016 TOKYO」を開催した。最先端のネット技術やそこから生まれるビジネスの課題を議論しあうイベントで、2005年から毎年開いている。

 今年、初日のテーマとして取り上げたのが「ブロックチェーンの真実」。世界中からブロックチェーン関連企業の経営者や技術者が集まり、日本銀行やマネックスグループなど国内金融機関の識者とブロックチェーンの未来を語った。本レポートでは、全3回でその模様を報告する。

 「インターネットにはやり残したことがある」――。デジタルガレージの自社イベント「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2016 TOKYO」に登壇した村井純 慶応義塾大学 環境情報学部長・教授は、こう語った。日本のインターネット整備、普及に力を尽くしてきた人物として知られる同氏。「ブロックチェーンの歴史的位置づけ」というテーマで講演し、ブロックチェーンが今後ネット社会の基盤になるうえでのポイントを語った。

村井純 慶応義塾大学 環境情報学部長・教授
村井純 慶応義塾大学 環境情報学部長・教授
(撮影:新関 雅士)
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 村井氏によれば、インターネットとブロックチェーンは共通点があるという。分散処理型の技術を採用している点だ。同氏は強みとして四つを挙げた。まずは「信頼性」と「強靱性」。一つのノードがダウンしても別のノードが処理を続け、復旧作業中もサービス提供が可能だ。さらに「調整力の高さ」。インターネットは分散型かつ自律的なネットワークのため、成長や変化に強い。「スケーラビリティに優れる」点でも共通している。分散型アーキテクチャーを正確に設計すれば、コンピュータノードを増やすことで、処理能力を容易に高められる。

 ただ、抱える課題も両者は同じ数だけあるとも語った。一つは、冗長な点である。複数のコンピュータノードに同じ機能を搭載して処理させるため、無駄が多くなる。どのノードも同じことをやることからコストがかかるわけだ。システムが分散しており、セキュリティの確保も簡単ではなく、複雑さも増すことも難点だとした。システム全体として正しさを担保するには、特殊な同期手法などが必要になる。信頼のおける安定した大容量ネットワークを準備しなければならない。

 (インターネットを発展させるうえで)「昔からの鍵だった」と村井氏は振り返るが、「インターネットを前提とした社会が定着し、ものすごい勢いで課題は解決されつつある」(村井氏)。大容量ネットワークは既に当たり前となり、冗長性によるコスト高も安価なコンピュータを組み合わせることで、ブロックチェーンが抱える課題も解消できる可能性は高い。

 一方インターネットがやり残したこととは、コンピュータ同士の対称なコミュニケーションだという。インターネットは、クライアントがサーバーにリクエストを投げ、サーバーが応答する「クライアント・サーバー型」で普及した。村井氏によると、インターネットとブロックチェーンは、分散処理型の技術を軸としている点で共通するが、コンピュータノードの役割が区分けされ非対称な通信が基本のインターネットは、完全に非中央集権的なネットワークにはならなかった。DNS(ドメイン・ネーム・システム)管理の仕組みも同様である。

 ただし村井氏は、必ずしも否定的には捉えていない。「サーバー・クライアント型は分かりやすくて使いやすい。だから爆発的に広がった。対称性にこだわっていたら、普及しなかったかもしれない」(村井氏)。