インバウンド(訪日外国人)向けのマーケティングで注目を集めているのが、携帯端末の位置情報を使った動態分析だ。今や訪日客の多くがスマホや携帯電話を持っていることが、位置情報の収集と分析、活用を後押しする。

 日本といえば銀座。5~6日の旅程のうち、訪日早々の2日目に訪れる。目的は買い物や食事といった観光で、宿泊は費用を抑えるためか別の地域で。比較的アクセスの良い成田空港か羽田空港を出国にも入国にも使う――。

 これは東京・銀座を訪れる訪日客の、典型的な行動パターンだ。『爆買い』の象徴的な場所としても語られることの多い銀座。訪日客が立ち寄ることが多いであろうことが推測できるだろう。

 この結果は、携帯電話のローミング(運用)データを使った訪日客の動態分析によって明らかになったものだ。以下、その基本的な仕組みや利点、実際の分析例を紹介する。

訪日客はどこにいる?

 訪日客の動態分析とは、対象の利用者がいつ、どこから移動してきて、どこへ移動しているのか、どんな国籍の人たちが来ているのか、といった情報を明らかにする技術、あるいは仕組みのことだ。狙っている顧客がいつ、どこに、どれだけいるのかを知ることは、集客や販促、街路の整備などあらゆる場面で重要である。

 例えば小売業やサービス業のマーケティングへ活用できる。自社の店舗にある地域を訪れる訪日客が直前に滞在していた地域や国籍が分かれば、その地域へ重点的に広告宣伝や販促活動を実施したり、逆に手薄になっている地域への販促を検討したりできる。訪日客の国籍を、店舗の案内に使う言語を選ぶ際の指針にすることも可能だ。

 企業だけでなく地方自治体などの観光誘致政策でも、動態分析は有用だ。訪日客の実態を把握するために、国籍別の旅行者数や旅行ルートを分析して見える化する。結果のデータを基に実施した施策について、実施後の動態を再び分析して、施策の効果を検証する、といった具合だ。

 以前ならば訪日客にアンケートを実施して経路や国籍を尋ねる手法が主流だったが、今はスマートフォンや携帯電話がある。これらモバイル機器のローミングデータや、各機器が搭載しているGPS(全地球測位システム)の位置情報、Wi-Fiなどの無線LANの通信ログ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の投稿など、モバイル機器から集められる様々なデータを使った分析が可能になっている。それぞれのデータに得意な領域があるため、データの特性に応じた適材適所の運用が望ましい。

図1●「モバイル空間統計」の概要
図1●「モバイル空間統計」の概要
出所:ドコモ・インサイトマーケティング、(R)NTTドコモ
[画像のクリックで拡大表示]