研修会が終わり、5~6月に新人が職場に配属された。そんなIT現場は多いだろう。もちろん、配属されたばかりの新人は戦力ではない。先輩社員が現場で仕事を教える「OJT」(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を通じて一人前に育てていく。
しかし、OJTをうまくできている現場はどの程度あるのだろうか。「新人をつぶしてしまうような、間違ったOJTをしている現場が少なくない」。OJTトレーナー(指導役)の養成を手掛けるオイコスの大坪タカ氏(チーフメンター)は嘆く。
「最近、新人の表情が暗い」「教えているのにできるようにならない」――。そうした新人育成に関する悩みは、実は“やってはいけないOJT”をやってしまっているからかもしれない。最悪の場合、新人は配属先の現場になじめず、仕事にもついて行けないと感じて、心身の不調に陥る。「6月病」などと呼ばれる問題だ。
大坪氏が語る、やってはいけないOJTとその解決策を紹介する。
目的を明確にせず、ただやらせる
「OJTのゴールやそこへの誘導の仕方について、OJTトレーナーと新人で合意していない」。大坪氏はありがちな悪いOJTをこう説明する。OJTトレーナーは「新人を一人前にする」などと曖昧に考え、ゴールを設定しないで新人に指示をする。
こうした状況だと、指導される側の新人はOJTトレーナーに何を求められているのか分からなくなる。「OJTトレーナーが高いレベルに到達させようと指導しても、新人は理不尽な文句を付けられているように感じる」(大坪氏)。新人が萎縮し、つぶれる原因にもなりかねない。そこまで行かなくても、新人が成長を実感しにくいという問題がある。
OJTの目的は「決められた期間で新人の知識、スキル、考え方、態度を向上させ、設定したゴールにたどり着くようにする」こと。大坪氏は「OJTの本質はゴールに向かう新人の軌道修正であり、OJTトレーナーと新人の協働作業だ」と話す。
例えば、「任せたプログラムの仕様定義、コーディング、テストを1人で実施できるようになる」といったゴールを明確にする。そして、OJTトレーナーにどういう関わり方をして欲しいのか、新人とコミュニケーションを取って合意をする。難しい話ではない。「高い目標だから指導は厳しくなるぞ」という問い掛けでいい。
新人が想定以上に結果を残し、OJTトレーナーがより高いゴールを目指したいと感じた場合は、ゴールの変更について合意をする。「OJTトレーナーが一方的にゴールのハードルを上げると、新人は『何でそんなことを言われるのか。嫌われたのではないか』と感じる」(大坪氏)。
これは、ゴールや指導方法を新人の希望通りにするというわけではない。新人の希望とは異なるゴールや関わり方になる場合も多くある。重要なのは、ゴールと関わり方について十分なコミュニケーションがあることだ。コミュニケーションが十分か否かで、指導に対する新人の感じ方は全く変わってくる。