国内のIT企業がAI人材を囲い込むようではダメ。このままでは、日本の産業全体が負けてしまう――産業技術総合研究所 人工知能研究センターの辻井潤一センター長の口調は厳しい(写真)。機械学習や自然言語解析といった人工知能(AI)技術を、日本の産業界はどう生かすべきか。辻井センター長に聞いた(聞き手=浅川 直輝)。

昨今の第3次AIブームを、どのように捉えているか。

写真●産業技術総合研究所 人工知能研究センターの辻井潤一センター長
写真●産業技術総合研究所 人工知能研究センターの辻井潤一センター長
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 今のAIブームは、「社会の情報化」の次の段階だと考えている。既にあらゆる産業に情報システムが入っている。その情報システムが、以前とは比較にならないほど高度な知能を持つようになった。それが今のフェーズだ。

 この「知能化」で他国に遅れると、創薬、自動車、金融、農業など、産業全体で負けてしまう。もはや、「情報産業は負け組だから、国のお金は入れられない」などと言っていられない。情報産業のみを切り取って勝ち負けを言える時代ではなくなった。

米企業はAIの出口戦略が明確

 今のIT産業を牽引しているのは、米グーグルや米フェイスブック、米マイクロソフトなどの米巨大IT企業。その理由は、米企業はAIの出口戦略が明確だからだ。Web検索、画像認識、音声認識といったAIの要素技術を提供しながら、内部に膨大なデータを蓄積し、ユーザープロファイルを作成し、広告ビジネスなどに生かしている。

 このため、AIの研究者も膨大にいる。 Microsoft Research(MSR)を統括するエリック・ホロヴィッツ氏は「1000人の部下のうち4割が、AIに関係する研究を手掛けている」と話していた。私が在籍していたMSRアジアは、Bing検索向け自然言語処理の研究拠点だ。