2017年6月1日から3日にかけて、教育関連の総合イベント「New Education Expo 2017 in 東京」が開催された。東京を主会場、札幌・旭川・仙台・名古屋・広島・福岡・宮崎をサテライト会場とし、数多くの教育関係者が来場した。

 会期の中日となる2日、東京会場では「これからの大学生に必要な『情報活用能力』~教育機関は社会のニーズにどう応えるか~」と題したセミナーが開催された。大学や高等学校など、それぞれの現場で情報教育に携わる3名のキーパーソンをゲストに迎え、取り組みの実践例を通じて“学生の情報活用能力の育成”について議論した。

 ゲストの講演に先立ち、進行役を務めた日経BP社 教育とICT Onlineの中野淳編集長が情報教育を取り巻く現状について報告した。ICTの分野では変化のスピードが非常に速く、それに対応するのが大変であるといった情報教育の難しさを指摘した。ICT環境の移り変わりについても言及した。ここ数年でLMS(学習管理システム)やeラーニングの仕組みなどを導入する教育機関が増えている。また、学生が1人1台のパソコンを所有して学習に活用する「パソコン必携化」の取り組みも広がっている。

 一方で、教材の著作権の問題が新たな課題になっているとの指摘も行われた。著作権法第35条では、学校教育の授業ならば著作物を無断で複製して使用することを認めている。このため、教員が著作物を流用して作成した独自教材を授業で利用している例が多い。ところが、こうした独自教材をLMSで配布したり、サーバーで共有したり、eラーニングに利用したりすると、著作権法違反になる可能性が高いという。このような使い方は、著作権法第35条が認めていない「公衆送信」に当たるためだ。

ICT活用の基本を身につける、ただしOffice操作は教えない
――大阪教育大学

 続いて最初のゲストである大阪教育大学 教育学部教育協働学科理数情報講座 教授/科学教育センター長/学長補佐(組織改革担当)の片桐昌直氏が講演した。同大学では2017年度から、教員養成課程(550名)と教育協働学科(350名)の新入生について、ノートパソコンの必携化に取り組んでいる。片桐氏が情報メディア基盤委員会の座長となって2015年から準備を始め、3回のFD(ファカルティ・ディベロップメント)を通じて必携化の状況説明を行った。

大阪教育大学 教育学部教育協働学科理数情報講座 教授/科学教育センター長/学長補佐(組織改革担当)の片桐昌直氏
大阪教育大学 教育学部教育協働学科理数情報講座 教授/科学教育センター長/学長補佐(組織改革担当)の片桐昌直氏
(撮影:小口 正貴)
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 必携化は、保護者が購入して学生が使用する「BYOD」(Bring Your Own Device)方式を採った。合計900名のうち、約40%は大学生協推奨のパソコンを購入。OSはWindows 8.1以降と選択の幅を持たせ、美術系・音楽系など専攻による特色も考慮してMacの購入も認めた。また、授業で必要となるためMicrosoft Officeの購入も呼びかけたが、負担を鑑みて「相当品の無料ソフトも認めた」(片桐氏)という。

大阪教育大学の必携ノートパソコンの必要条件
大阪教育大学の必携ノートパソコンの必要条件
(出所:大阪教育大学)
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 2017年度の新入生から全学共通科目として「ICT基礎a」を導入。学内のワーキンググループが中心となって授業内容とシラバスを決定した。

 「まず、キーボードのタイピングやOfficeソフトの操作など、基本操作は扱わない。そして専門・専攻に関係ない基本要素だけを扱う。これに加え、この科目自体が教職課程認定科目に対応していたので、情報機器の活用も含んだ」(片桐氏)。