日本語チャットボットの開発には、英語にはない独特の障害がある。入力テキストの単語が分かち書き(単語間にスペースを入れること)されていない、主語の省略が多い、コンピュータが使える辞書の整備が進んでいない、といったものだ。
そうした困難を乗り越え、チャットボットの基礎技術を開発している企業はまだ限られる。有名どころでは、NTTグループや富士通、東芝、日本IBMといった老舗ITベンダー、カーナビやロボットに使える音声インタフェースを研究するトヨタグループの豊田中央研究所やホンダ・リサーチ・インスティチュート、Pepper開発元のソフトバンクグループ、音声認識に強いアドバンスト・メディア、会話エンジン「CAIWA」で知られるユニバーサルエンターテインメントなどがある。
最近では、AI(人工知能)開発のスタートアップ企業のオルツなどが、自然言語処理の研究者を集め、チャットボット技術の開発に乗り出している。
「脳に挑む人工知能」第22回は、日本語チャットボット開発の最前線として、チャットボットの業務利用を目指す富士通研究所と、特定人物の会話を模倣する「パーソナルAI」を開発するオルツの取り組みを紹介する。
富士通研は2016年度の実用化目指す
富士通研が目指すのは、旅行の手配から保険の申し込みまで、これまで人間が手掛けていた窓口業務を代替する「業務に使えるチャットボット」だ。
2016年度中の実用化を目指す。東京海上日動火災保険と共同で技術検証を行ったほか、あるユーザー企業とPoB(proof of business)レベルの実証実験を行う段階までこぎ着けているという。
例えば旅行チケット手配であれば、チャットボットが利用者と会話しながら「行き先」「期間」「同伴者」といった、チケット手配に不可欠な項目を聞き出す。「聞き出す項目をあらかじめ定義し、ゴールに向かって突き進むイメージだ」(富士通研究所 メディア処理研究所 感性メディア処理プロジェクト 主任研究員の村瀬健太郎氏)。
これまでの典型的なオンライン旅行チケット手配のプロセスといえば、Webサービス側が所定の順番通りに選択肢を提示し、ユーザーがそれに答えていくものだった。
こうしたWeb予約は、効率という面では優れている。ただ、対面での旅行チケット予約と比較すると、途中で質問もできないし、旅行先の話題で盛り上がることもなく、ユーザー体験として優れているとは言いがたい。
そこで富士通研が目指したのは、利用者がチャットボットと自然な形で会話しながら、必要な項目のすべてを聞き出せるようにするチャットボットだ。