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 災害の後は、電話回線の混雑を防ぐため、被災地に向けた不急の音声通話はなるべく避け、メールやSNS、災害用伝言板を使った方が良い――このことは、東日本大震災を通じて広く国民に知られるようになった。

 では、音声で通話したい場合でも「携帯電話」から「固定電話」といった異種間の通信はできれば避けた方がいい――こんな話はご存じだろうか。

 2016年4月に発生した熊本地震は、音声電話からデータ通信まで、現地の通信ネットワークに大きな被害をもたらした。停電やケーブル断による回線の不通に加え、安否確認のための音声通話が集中し、回線容量を逼迫させる「輻輳(ふくそう)」も発生した。

 停電やケーブル断、音声通話の輻輳は、東日本大震災の際にも大規模に発生し、音声通話がほとんど使えない事態となった(日経テクノロジーOnline関連記事:【震災、そのとき情報通信は(1)】想定外の72時間、停電で携帯電話は使えなくなった)。その後、国内通信各社は「災害に強いネットワーク」を目指し、設備の増強や冗長化に取り組んでいた。

 熊本地震では、これらの試みは実を結んだのか。通信事業者への取材を元に、今回の地震から得られる教訓を考えてみたい。

混雑による通信障害の多くは短期間で解消

 まず熊本地震における、通信回線の混雑に起因する通信障害からみていこう。

 固定網を管轄するNTT西日本によれば、「前震(14日午後9時26分、M6.5)と本震(16日午前1時25分、M7.3)の直後に、それぞれ数分ほど、混雑のため電話がつながりにくい事象が発生した」(広報部)という。ただ、一定割合の発信を強制的に遮断する「発信規制」を迫られるほどには、回線容量は逼迫しなかったという。

 携帯電話網にも、混雑に伴う障害が発生した。例えばNTTドコモは「前震直後、平常のピーク時の35倍の発信があり、通話量が容量を超えてあふれた」(サービス運営部 災害対策室 室長の池田正氏)ため、前震の発生から1時間ほどつながりにくくなった。ただ、発信規制をかけるほどの混雑には至らなかった。

 KDDIの場合、混雑に伴う障害はみられず、発信規制もかけていないという。ソフトバンクは前震の直後に、ソフトバンクの携帯電話から熊本県内の携帯電話への発信に規制をかけたが、1時間半後には解除している。

長期の発信規制がかかった「携帯→固定」通信

 その一方、熊本地震で唯一、長時間にわたって発信規制がかかったケースがあった。NTTドコモの携帯電話から熊本県の固定電話への通話である。