日本で暮らしていると、高速なインターネット接続は当たり前で、通信障害もめったに起こりません。しかし海外に行くと、全く異なるネットワーク事情に驚くことが少なくありません。日本のインターネット利用者数は総人口の9割に達していますが、途上国では2割に満たないケースもあります(図1)。こうした国々では、インターネット接続環境を構築している真っ最中です。
筆者は、カンファレンスやワークショップに参加するため、月に1〜2回の頻度で海外に行きます。ここでは主に、変化の著しい新興国や途上国について、筆者が見聞きしたり、現地のネットワーク技術者と交流したりして知ったネットワーク事情を紹介します。日本の事情は、ここで取り上げる国々とは大きく異なります。日本ではあり得ないような例もありますが、ネットワークを構築、運用する現場では、似たような悩みもあると感じています。
紹介するトピックは大きく三つあります。(1)ネットワークの作り方、(2)ユーザーを取り巻く環境、(3)技術者を取り巻く環境です。筆者が各地で撮影した写真と共に、世界のネットワークを見ていきましょう。
ネットワークの作り方ある日突然最新の技術が導入
まずはネットワークの作り方の違いを説明します。一般的に、ネットワークを構築した後は数年後の見直し時期が来るまで、そのままネットワークを運用し続けます。通信サービスも同様です。モバイルサービスの場合、だいたい10年くらいで新たな技術を導入します。導入する技術は、第2世代から第3世代、第4世代といった具合に、技術の進化をたどっていきます。
ところが国によっては、新技術を取り入れる間隔が数十年と長いケースがあります。すると、技術革新の世代をいくつか飛ばし、突然最新の技術が導入される場合があるのです。
例えばブータンでは、インターネット接続の手段がなかった山奥の寺院で、突然3G▼のモバイルサービスが使えるようになりました(写真1)。寺院の裏にはモバイルアクセス用のアンテナ塔が建っています。歩いてしか行けない場所にある厳かな寺院で、伝統的な僧衣をまとった僧侶がおもむろに懐からスマートフォンを取り出し操作するのを見ると、なかなか不思議な気持ちになります。