日本で暮らしていると、高速なインターネット接続は当たり前で、通信障害もめったに起こりません。しかし海外に行くと、全く異なるネットワーク事情に驚くことが少なくありません。日本のインターネット利用者数は総人口の9割に達していますが、途上国では2割に満たないケースもあります(図1)。こうした国々では、インターネット接続環境を構築している真っ最中です。

図1●世界のインターネット人口普及率
図1●世界のインターネット人口普及率
日本のインターネット人口普及率は高い水準にある。途上国や新興国の一部は50%以下の普及率だが、インターネット接続環境が大きく変わりつつある。グラフは2015年のデータから、いくつかの国を抽出した。
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 筆者は、カンファレンスやワークショップに参加するため、月に1〜2回の頻度で海外に行きます。ここでは主に、変化の著しい新興国や途上国について、筆者が見聞きしたり、現地のネットワーク技術者と交流したりして知ったネットワーク事情を紹介します。日本の事情は、ここで取り上げる国々とは大きく異なります。日本ではあり得ないような例もありますが、ネットワークを構築、運用する現場では、似たような悩みもあると感じています。

 紹介するトピックは大きく三つあります。(1)ネットワークの作り方、(2)ユーザーを取り巻く環境、(3)技術者を取り巻く環境です。筆者が各地で撮影した写真と共に、世界のネットワークを見ていきましょう。

ネットワークの作り方ある日突然最新の技術が導入

 まずはネットワークの作り方の違いを説明します。一般的に、ネットワークを構築した後は数年後の見直し時期が来るまで、そのままネットワークを運用し続けます。通信サービスも同様です。モバイルサービスの場合、だいたい10年くらいで新たな技術を導入します。導入する技術は、第2世代から第3世代、第4世代といった具合に、技術の進化をたどっていきます。

 ところが国によっては、新技術を取り入れる間隔が数十年と長いケースがあります。すると、技術革新の世代をいくつか飛ばし、突然最新の技術が導入される場合があるのです。

 例えばブータンでは、インターネット接続の手段がなかった山奥の寺院で、突然3Gのモバイルサービスが使えるようになりました(写真1)。寺院の裏にはモバイルアクセス用のアンテナ塔が建っています。歩いてしか行けない場所にある厳かな寺院で、伝統的な僧衣をまとった僧侶がおもむろに懐からスマートフォンを取り出し操作するのを見ると、なかなか不思議な気持ちになります。

3G 3rd Generationの略。携帯電話の通信規格の世代。W-CDMAやCDMA 1Xが3Gと呼ばれている。最新のLTE(Long Term Evolution)が4G。
写真1●ブータンの寺院とアンテナ塔
写真1●ブータンの寺院とアンテナ塔
ブータンでは日常での民族衣装の着用が推奨されるなど伝統文化が大切にされている一方、急速にモバイルアクセスが普及している。
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