本連載「脳に挑む人工知能」第1回、第2回、第3回では、脳神経細胞を模したニューラルネットワークによる画像認識を中心に、人工知能技術の最前線を解説した。第4回以降では、動物の中でも人間にしかできない「複雑なコトバを操る」ことを可能にする人工知能について、脳科学やビジネスとの接点を交えて紹介する。
人類がコトバを操るようになったのは、ヒトの歴史の中でもごくごく最近のことだ。言語の起源については諸説あるが、複雑に文節化した言葉を発することができるようになったのは少なくとも10万年前、ホモ・サピエンス(新人)がアフリカから世界へ移動を始めた頃とされる。
ヒトの祖先がチンパンジーの祖先と分かれたのがだいたい500~600万年前のこと。チンパンジーであれば、第1回~第3回で取り上げた物体の認識、つまり「モノを見る能力」は当然のように備わっていたろう。だが「コトバを操る能力」については、猿人、原人をへて、ようやく最近備わったものだ。つまりヒトがヒトであることの最大の特徴が、複雑なコトバを操る能力となる。この能力をコンピュータで再現することは、ヒトの知性そのものを作り出す試みといえる(図1)。
この無謀ともいえる試みに、まったく異なるアプローチで共に挑戦する企業がある。コンピュータメーカーの老舗である米IBMと、コトバを操る「検索」という技術で業界を制した米グーグルだ。
Watsonが銀行の顧客と対話、2015年度中に実現へ
「検証の結果が良ければ、チャットや音声による顧客対応をWatsonに任せてみたい」。三菱東京UFJ銀行 IT事業部 事業第一グループの野元琢磨次長が、IBMが開発する質問応答システム「Watson」に寄せる期待は高い(関連記事:人型ロボにWatson、三菱東京UFJ銀行が先端技術の実用化にアクセル)。Watsonに顧客の最初の応対を任せることができれば、「人工音声の案内をもとに、電話のプッシュボタンを押す」といった、これまでの問い合わせ窓口のサービス品質を大きく改善できる。ロボットをインタフェースとして、店舗での接客にWatsonを活用することもできそうだ(図2)。「専門領域への試みとしては、フィナンシャルプランナーのノウハウをWatsonに学ばせ、資産形成の相談を担ってもらうことを検討している」(野元氏)。