半導体製造装置大手ディスコが、ITを活用した異色の経営管理手法に挑み続けている。「Will」と呼ばれる社内通貨を導入し、社員一人ひとりの業務への貢献度を管理する。一種の個人管理会計システムで、毎月の収入と支出をWillで管理。稼ぐための手段として、社員が独自に業務改善のためのスマホアプリなどを開発する文化を根付かせることに成功した。独自のアプリストアには、実に約100本が並ぶ。

 「早い、安い、良い。情報システムも製造現場と同じく社員自身が手作りした方がいいに決まっている」。関家一馬代表取締役社長はこう言ってはばからない。社長自身が最高情報責任者(CIO)と技術開発本部長を兼務するディスコの「IT力」を追った。

業務のあらゆる場面で社内通貨が必要

写真●社員が発案した業務改革案「メソッドチェンジ」をプレゼン対決する「PIM対戦」と呼ばれるイベントの一コマ
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写真●社員が発案した業務改革案「メソッドチェンジ」をプレゼン対決する「PIM対戦」と呼ばれるイベントの一コマ

「では、DIC対SP本部のこの勝負、みなさん投票してください」。都内大田区にあるディスコ本社には、多くの社員が一堂に会していた。開いていたのは社員が発案した業務改革案「メソッドチェンジ」についてプレゼン対決する「PIM対戦」と呼ばれるイベントだ。ディスコでは部署内や部署間などで頻繁にPIM対戦が行われている。この日は月に1回開かれる、全社横断のチーム対戦だ。

 合計6試合が行われ、試合ごとに社員は優れたと思う相手に「賭け金」をスマートフォンアプリで投じていく。会場に足を運べない支店や広島などの工場勤務の社員も中継を見ながら賭けに参加できる。

 賭け金で使われているのが独自の社内通貨である。通貨単位はWillで、試合ごとに一人最大20万Willまで賭けられる。勝てば相応の配分が受けられ、負ければマイナスになるのは一般的な賭け事と同じだ。「この試合は、5391万WillでDICの勝ちです」。結果が知らされると、会場はどよめく。テレビタレント並みのプレゼンを披露する社員も多く、観客の側からも終始喝采の声が止まなかった。

 社員が夢中になるのも無理はない。ディスコでは、社員が業務をしていくに当たってあらゆる場面でWillが必要になるからだ。会議室を確保するにも、関連部署に業務を依頼するにも、相当額をWillとして持っていなければ着手できない。おまけに賞与の一部もWillに連動して決められる。そのため、率先して業務を引き受けたり、人気があればオークション形式で高値で落札したり、Willを稼ぐために社員は日々奔走する。