eラーニングやデジタル教材の活用、LMS(学習管理システム)の導入など、教育分野でICT(情報通信技術)の活用が進んでいる。この動きを後押しするため、政府は早ければ2018年にも、デジタル教材を授業用にネットで配信する際の著作権処理を不要にする法改正を実施する見通しだ。
法改正によって授業でデジタル教材を活用しやすくなる見込みだが、実は法律が認める教材の利用範囲には制約がある。こうした制約を教職員が正しく理解していないと、ICT活用によって意図せずに著作権を侵害することになりかねない。
2017年12月の大学ICT推進協議会(AXIES)の年次大会で、デジタル教材と著作権に関する2つのセミナーが開催された。セミナーでは法改正を前に、大学の教職員などが教育現場で直面する著作権処理の課題やリスク、その対応策について語った。セミナーの内容を基に、教育関係者が知っておきたい著作権侵害リスクについて紹介しよう。
最初のセミナーは、AXIESの学術・教育コンテンツ共有流通部会が大会初日の12月13日に開催した「著作権法がまだ変わってない!LMSによる教材の公衆送信と補償金 part2」。このセミナーでは3人の講師が、教育現場における著作権処理の課題や著作権に関するアンケート調査の結果について解説した。
最初に登壇したのは、大阪教育大学教育学部教育協働学科の片桐昌直教授。片桐教授は、教員の研究活動における著作物の「引用」、入学試験問題など教員が職務上の行為として創作した「法人著作」(職務著作)、授業での著作物の「複製」を認めている著作権法第35条第1項などについて説明した。その上で、著作権法が認めている「引用」にはいくつかの条件があるにも関わらず、出所を明示すれば引用できると誤解している教育関係者が多いなどの問題点を指摘した。
加えて片桐教授は、2018年2月にスタートする「教育著作権検定」について紹介した。これは、教職員や教員養成課程の学生を対象に教育現場で必要な著作権の知識を測る検定。サーティファイ著作権検定委員会の主催で、片桐教授も認定委員を務めている。
続いて広島大学情報部情報化推進グループの天野由貴氏が、著作権法の改正について解説した。
現状の著作権法でも、第35条第1項によって、第三者の著作物が含まれている教材を授業で配布したり、USBメモリーで配布したりすることができる。ところが、第三者の著作物が含まれている教材をLMSで配信したり、授業を録画してオンデマンド配信したりする「異時公衆送信」は認められていない。現状の著作権法が認めているのは、著作物の「複製」や一定条件の下での同時中継であるためだ。
今回の法改正は、授業目的で異時公衆送信ができるようにする代わりに、教育機関からの補償金の徴収、教育機関での著作権教育などを進める内容となる見込みだ。天野氏は、こうした法改正の動きについて説明した上で、ガイドラインの整備や具体的な著作権教育活動の検討など、教育現場が抱える課題を指摘した。
最後に広島大学情報メディア教育研究センターの隅谷孝洋准教授が、AXIES 学術・教育コンテンツ共有流通部会 著作権チームが実施した「著作権に関するアンケート調査」の結果を報告した。この調査は、「教育機関の著作権啓発活動の状況」と「教員の著作権に対しての認識」を明らかにすることを目的に2017年11月に実施したもの。45の教育機関と886人の教員から回答があったという。
調査の結果、5年以内に著作権啓発活動を実施した教育機関は、62%に当たる28機関だった。また、教員の著作権処理を支援する専門部署がある機関は、14%の6機関だった。教員に対する法改正についての質問では、「ほぼ知っている」(4.8%)、「多少知っている」(13.7%)、「あまり知らない」(42.6%)、「全く知らない」(38.9%)という結果だった。調査結果を見る限り、教育現場の著作権に対する理解は進んでおらず、教職員が意図せずに著作権を侵害するリスクが高い。