「2017年は、Student Success(学生の成功)がより重要なテーマになる。テクノロジーを使うことで、学業をいかに助けるかが求められている」。こう話すのは、米エデュコーズ(EDUCAUSE)のジョン・オブライエン会長兼CEO(最高経営責任者)だ(写真1)。2016年12月15日、京都市で開催された大学ICT推進協議会(AXIES)の2016年度年次大会の基調講演に登壇した。

写真1●米エデュコーズのジョン・オブライエン会長兼CEO
写真1●米エデュコーズのジョン・オブライエン会長兼CEO
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 EDUCAUSEは、高等教育分野でのIT活用の促進を目的とした非営利団体。1800以上の大学や300以上の企業などが参加する。AXIESは同種の国内団体で、以前から交流がある。オブライエン氏はAXIESの会員らを前に、EDUCAUSEが毎年発表する「Top 10 IT Issues(IT分野の課題トップ10)」を引用しながら、IT活用の重要テーマを語った(写真2)。

写真2●AXIESの2016年度年次大会、全体会の様子
写真2●AXIESの2016年度年次大会、全体会の様子
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 2016年、2017年と連続してトップ10入りしたキーワードが、冒頭の発言にあった「Student Success」。学業面で学生を成功に導くことを意味する。「米国では、仕事を得るために大学に入っても途中で脱落してしまう学生がいる。これでは、学生には負債だけが残って学位は取れない」(オブライエン氏)。ITによる学びの支援で、この状況を改善することが期待されている。

 そこで有益なのが、データ分析技術という。例えばLMS(学習管理システム)のデータから、各授業への参加状況や試験の結果が分かる。さらにどの学生とどの学生が頻繁にコミュニケーションしているか、関係は良好なのかも把握できる。学業の状況や人間関係に問題がありそうだと分かれば、大学側が学生に働きかけをするといったサポートができるようになる。

 学生個人に合わせた学習を実現するアダプティブラーニング(関連記事:[Z会編3]間もなく登場、Z会版“アダプティブラーニング”の実体に迫る)や、電子テキストなどの技術も効果的という。学生の理解度に応じて学習内容を変化させることで、学習効果や継続率を高められるからだ。実際、米国では授業から脱落する学生を47%以上減らせた大学もあるという。学生にとって意義があるのはもちろん、「学生にきちんと残ってもらうことは、大学の財政にとっても重要なことだ」とオブライエン氏は話す。

 同氏が今後の有望な技術と見るのが、VR(仮想現実)やゲーム。これらを学習に応用することで、より学生の興味を高め、学習を継続させられる可能性があるとする。さらに将来的には、人工知能や機械学習に大きな可能性があると指摘した。

 データ解析の重要性については、オブライエン氏に続いて基調講演を行った九州大学の安浦寛人理事・副学長も言及した(写真3)。九州大学では既に、LMSや電子テキストなどを組み合わせた教育を実践中という。

写真3●九州大学 理事・副学長で、AXIES名誉会員である安浦寛人氏
写真3●九州大学 理事・副学長で、AXIES名誉会員である安浦寛人氏
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 「学生がどのページをどの程度読んだのか、どこにアンダーラインが引かれたか。こうしたログが一日約18万件たまるようになっている」(安浦氏)。これを分析することで、個人やクラス単位での学習の進捗状況が分かる。教員にとっても、講義中、今自分が教えている箇所と学生が開いているページが異なる、といった状況がリアルタイムに分かるという。

 こうしたデータ分析結果を基に、教育の質を高められる時代になっていると安浦氏は指摘する。学生の予習の状況に応じて講義の内容を変える、試験の結果だけでなく学習の過程も細かく分析して学生を評価する、といったことが可能になっているという。