現場をよく知る担当者が、需要を予測し、それに基づいた行動計画を立案・実行し、変化の激しい市場に対応する─。コンビニエンスストアの発注業務などに代表されるように、現場に権限とデータを与えて、判断を委ねる企業は多い。

 現場の担当者にとっては、やりがいはあるものの、データをにらみながら予測から対策に至るすべての工程を回していくのは結構な負担。1つひとつのデータを精査するのに手が回らず、発注であれば「売れた分だけ補充する」「前日と同じ数だけ発注する」など“惰性”で進めてしまいがちだ。

 158コースのゴルフ場を運営するPGMホールディングスもそうした問題を抱えていた。ゴルフ場ではプレー日の3カ月前から予約の受け付けを始める。予約がなかなか埋まらなければ価格を下げたり、順調に埋まっていれば価格を上げて利益を増やしたりといった価格調整を行う。PGMでは「エリアセールスダイレクター」と呼ばれる営業担当者が、その役割を担っていた。

 エリアセールスダイレクターは前年同週の実績値などを参考に、プレー日までにどんなペースで予約が埋まっていくかを予測し、需要曲線を描く。この需要予測と当日までの実績を比較して価格を調整し、ダイレクトメールやウェブサイトでの販促を企画するのが主な仕事だった。

予測修正に手間、対策が後手に

 ところが近年、この需要予測が狂うことが増えていた。その背景には、ネット予約が普及し、日単位で価格をきめ細かく変更できるようになったことがある。

 近隣の競合ゴルフ場が超安値を提示すると、顧客がそこに流れてしまい、キャンセルを入れてくるというのだ。エリアセールスダイレクターは予測の修正に追われ、肝心の価格変更や販促企画に十分に手が回らないという悪循環に陥っていた。

 そこでPGMは、エリアセールスダイレクターを需要予測の業務から「解放」することにした。予測精度を上げるためにデータ分析スキルを学ばせるのではなく、そもそも予測はコンピューターに任せてしまうことにしたのだ。

 同社は、2014年4月に新たなITシステム(日本IBMのデータ分析ツール「Cognos TM1」で構築)を導入。これを使って全ゴルフ場の需要予測を統計的に算出する。ここに前日までの実績値を反映させて、自動的に修正をかける。エリアセールスダイレクターは予測をシステムに「お任せ」し、価格変更や販促などのアクションのみに集中できる。組織名も「価格戦略グループ」に変え、ミッションを明確にした。