前回の記事では、Spotifyをはじめとする音楽ストリーミングサービスが、iTunesに代表されるダウンロード配信を追い詰めている実態を、筆者がかかわるレーベルの販売データをもとに考察した。今回は、日本の音楽業界とインターネットとの関係について過去を振り返りながら、これからの音楽業界の行く末に思いを巡らせてみたい。
本論に入る前に、表を見てほしい。これは、あるアルバムのCD販売とダウンロード販売の分配率と収益の一例だ。販売価格を基準として「誰と誰が何パーセントを抜いて、原盤権者にはいくらの収入を渡す」という仕組みは同じだ。
CDアルバム | 流通 | レコード会社 | JASRAC | 原盤権者 |
---|---|---|---|---|
2700円 | 1350円 | 810円 | 162円 | 378円 |
100% | 50% | 30% | 6% | 14% |
iTunes Store | Apple | アグリゲーター | JASRAC | 原盤権者 |
---|---|---|---|---|
1481円 | 444円 | 200円 | 114円 | 723円 |
100% | 30% | 13.5% | 7.7% | 48.8% |
具体的に言えば、ダウンロード配信の時代になって、アーティストや原盤権者の中には、CDよりも収入が増えた例もあったはずだ。上記の例では、物流などの「中抜き」が起き、物理的なCDの製造も不要になったことで、コストが大幅に下がっている。ダウンロードによって販売価格はCDの2700円から1481円に下落しているのにもかかわらず、原盤権利者の収入は増えている。
ここで紹介した分配の例は、原盤権利者が100%の権利を保有する最もシンプルな形だが、実際にはもっと多くの権利者がかかわっていることがほとんどだ。原盤権利者の収入は、制作費の持ち分や契約条件などにより大きく異なる。
ダウンロード配信のビジネススキームは、物理的なパッケージメディアを物流に乗せていた時代と何も変わっていなかった。物理メディアが楽曲データになり、現実の物流がネットに代わり、CDショップがiTunes Storeに置き換わっただけだ。複製コンテンツをユーザーに所有させその対価を得るという仕組みは、物理媒体を複製して販売していた時代のビジネスモデルそのまま。そのビジネススキームを踏襲し、売価を基準にした分配比率を決め、関係者が収益を分け合うモデルだ。