英国において年収約560万円(3万ポンド)未満の職業は、年収約1870万円(10万ポンド)の仕事と比較して機械(automation and robotic)に職を奪われる確立が5倍以上。ロンドンでは8倍以上----。

 2014年11月に英国の監査法人デロイトが発表したプレスリリースが話題になった。オートメーションやロボットの進化によって人は、単純作業や事務職といった仕事を失うという。この文章には「人工知能(AI、Artificial Intelligence)」という言葉は使われていないが、昨今の「人工知能が仕事を奪う」的な危機感をあおる数々の報道の中でも、このリリースは年収という分かりやすい指標を明記しているので自分事に置き換えて「そうなのか〜」と沈思してしまう。

 この他にも、マサチューセッツ工科大学の研究者エリック・ブリニョルフソン氏が著書「機械との競争」の中で、技術の進歩により雇用が失われていると説くなど、技術の進歩と就労の危機についての言説は多々ある。その一方で、ソフトバンクのPepperがクラウド上の人工知能と連携し人間的な受け答えをするのを過去に経験しているだけに、そのときのほのぼのとした気持ちを思い出し「まっ、大丈夫でしょう」と、安心する自分もいる。

 考えてみれば、産業革命の昔からテクノロジーの進歩により、数々の仕事が機械に置き換えられてきた。その一方でテクノロジーの進歩により生まれた新しい仕事もある。要は、環境の変化に対応して人間がシフトできるか否かという問題であり、人工知能やロボットが既存の職業を奪ったとしても、新たな仕事の創出が進めばなんら問題はないという思いもある。それどころか「機械でできる仕事はすべて機械に任せて、人間は左団扇(ひだりうちわ)で楽して暮らせばいいよね」などとユートピア的な世界を夢想して楽天的に考えてしまうのは、脳天気に過ぎるだろうか。

 日本銀行の黒田東彦総裁は、少子高齢化に伴う労働力人口減少は日本の経済成長にとって大きな脅威であり、女性や高齢者の就労率を高める必要があるといった趣旨のことを言ったそうだが、人工知能やロボットの就労率を高めれば、「プラスマイナスゼロでちょうどいいじゃん」などとうそぶいてみたりもする。できることなら高齢になったらあくせくと働きたくはない。

 とはいえ、将来は人工知能が自分より利口な人工知能を開発し、その利口な人工知能がさらに利口な人工知能を開発するという、右肩上がりの無限進化を予測する米グーグルのレイ・カーツワイル氏という人もいるくらいなので、何が起きるのかまったく予測が付かない。人間が変化に適応する速度よりも人工知能が進化する速度が速ければ、人は為す術なく呆然と佇むしかない。そんな未知の壁を前に人々が不安になるのは理解できる。