Apple Musicが始まって早2カ月が過ぎようとしている。洋楽のメジャー系旧譜ならほぼ見つかるApple Musicのカタログラインナップは、筆者のような70年代ロック大好きオヤジからするとアポロ(ギリシャ神話の音楽の神)が降臨したようなもので、夢のような音楽ライフを謳歌している。一応、音楽業界の末席に属していることもあり、普段から人よりは音楽に接する時間は長いのだが、プライベートな時間も含めこの2カ月はかつてないほどに全身全霊で音楽のシャワーを浴びている。

 音楽を作り、世に送り出す立場からすると、Apple Musicのような定額制の聴き放題のビジネスモデルは、目方でドン的な大量消費によって1曲あるいは1アルバムの価値が相対的に薄まってしまう危機感に苛まれる。だが、1音楽ファンという立ち位置で利用していると、夢のような環境によって価値の希薄に対する不安は宇宙の彼方に吹き飛んでしまう。Apple Musicに限らず、聴き放題型のサービスは、音楽リスナーにとってそれくらい革命的なのだ。

 ただ、獅子は可愛い我が子を千尋(せんじん)の谷に突き落とす故事に倣い、ここはあえてApple Musicの気になるところ、こうあって欲しいと願う部分を、先輩格であるSpotifyと比較しながら、重箱の隅をつつきつつ、叱咤激励の思い込めた文章を手向けたい。

ローカルとクラウドがシームレスに混在するがゆえの混乱

 iTunesや「ミュージック」アプリにApple Musicの機能が追加されたことで「建て付け」が複雑になった。ローカルの楽曲とApple Music上の楽曲がシームレスに扱われるため、混乱することがある。とくに、プレイリストにお気に入りの曲を保存した場合など、ローカルに保存してある楽曲とApple Music上の楽曲がiTunes上で混在して表示されたりするのでややこしい。パソコンのiTunesの場合は、楽曲名の後に表示される小さな雲のアイコンの有無で判断できるのだが、iOSでは表示されない(図1)。

図1●「iCloudミュージックライブラリ」雲のアイコンが2種類あり、図のような斜線入りの雲アイコンは楽曲の重複を意味するのだが、うかつに削除するとローカルの楽曲が消えてしまう恐怖心から、どうしてよいのかわからない
図1●「iCloudミュージックライブラリ」雲のアイコンが2種類あり、図のような斜線入りの雲アイコンは楽曲の重複を意味するのだが、うかつに削除するとローカルの楽曲が消えてしまう恐怖心から、どうしてよいのかわからない
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 iTunesの設定で「iCloudミュージックライブラリ」をオンにすると、ローカル(母艦のパソコン)に保存してある曲を他の端末でも聴けるようになるのはとてもありがたい。けれども「結合」「置き換え」といった判断を迫られ「置き換え」を選んだばかりに端末間で聴ける曲が異なったり、iOS側で「iCloudミュージックライブラリ」を一旦「オフ」にしないとApple Musicに存在しないローカル楽曲がiOS端末に転送できないなど、とにかく混乱の極みだ。