「IoT時代のYahoo! BB」の登場か──。3月にIoTデバイス向けの通信接続サービスを始める予定のスタートアップ企業、センスウェイの取材を終えたときの感想だ。

 時計の針を巻き戻すこと約17年前の2001年、それまで下り最大1.5Mbpsで月額6000円程度の料金水準だったADSLブロードバンド接続事業に、下り最大8Mbpsで月額約2500円という価格で殴り込みをかけたのがYahoo! BBだった。駅前でADSLモデルを無料配布していたのをご記憶の方も多いだろう。

 Yahoo! BBが火付け役となりブロードバンドの常時接続が一気に普及したことで、インターネット上のコンテンツやサービスにおけるビジネスの歯車がかみ合い始めたことを思い出してほしい。転じて現在。「来る、来るよ」という掛け声ばかりで、いまひとつ現実感に欠けるIoTビジネスの分野において、IoT向けのラストワンマイル接続が進展することで、普及に弾みが付くのではないだろうか。まずインフラありきで、その上にアプリケーションが育つ、というブロードバンドの「いつか来た道」を予感するのだ。

日本初の全国展開、LoRaWAN接続プロバイダーの登場

 センスウェイは、LoRaWAN基地局の全国展開を目指す接続事業者だ。LoRaWANとは、省電力で広域通信を実現する無線技術LPWA(Low Power Wide Area)の一種である。サービスの正式発表とスタートは3月の予定だが、早期に全国で約2万局の基地局を整備してIoT向けの接続サービスを行う。「LoRaWANの接続プロバイダーとしては日本で初めての存在」(神保雄三氏・センスウェイ専務取締役)だという。センスウェイのビジネスを一言で表現すると「IoTデバイス向けのISP」ということになる。

センスウェイ専務取締役の神保雄三氏。センスウェイを起業する前はニフティの執行役員としてブロードバンド接続の普及に尽力していた
センスウェイ専務取締役の神保雄三氏。センスウェイを起業する前はニフティの執行役員としてブロードバンド接続の普及に尽力していた
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 実はセンスウェイに取材するまで、筆者は彼らが標榜するビジネスのもたらす可能性と将来性をまったく理解できなかった。「LoRaWAN」でネット検索すると、大手携帯電話事業者やKDDI傘下のソラコムが実施する事業やサービスばかりが目立って表示される。それらのビジネスとセンスウェイのサービスとの違いがよく理解できなかったのだ。モバイルビジネスの巨人が名を連ねるこの領域に、資本金1億円のスタートアップが挑むことの無謀さを感じ、大丈夫なのだろうかとさえ思っていた。

 だが、それら巨人達が提供するサービスとセンスウェイのサービスは大きく異なる。端的に表現すると「ハードルの低さ」にある。大手キャリアが提供するLoRaWANのサービスは、どれもネットワーク構築、保守・運用、サポートといったものがトータルにパッケージされたものが中心で「それなりのビジネス規模」が要求されるものばかりのように見える。つまりシステムインテグレーションの中のインフラとしてLoRaWANを位置付けている。

右のチップがのLoRaWANモジュール(11×13mm)。これにボタン電池とアンテナを接続すれば、LoRaWAN基地局に接続可能なIoTデバイスを作ることができる。普及が進めば5ドル程度の価格が実現するそうだ
右のチップがのLoRaWANモジュール(11×13mm)。これにボタン電池とアンテナを接続すれば、LoRaWAN基地局に接続可能なIoTデバイスを作ることができる。普及が進めば5ドル程度の価格が実現するそうだ
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 だが、センスウェイの接続サービスは、1デバイス当たり月額30円で回線だけを提供してくれるシンプルさが売り。通常のプロバイダーとインターネット接続を契約するようなハードルの低さがある。

センスウェイのLoRaWAN月額料金プラン(同社のプレゼン資料より)
センスウェイのLoRaWAN月額料金プラン(同社のプレゼン資料より)
出所:センスウェイ
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 ソラコムのサービス「SORACOM Air for LoRaWAN」に近い印象だが、ゲートウエイ端末の購入が必須であったり契約期間の縛りがあるなど、それなりの初期投資を必要とする。同社のサービスをあえて例えるなら、大手キャリアのシステムインテグレーション的なビジネスとセンスウェイのIoT向けプロバイダーサービスの中間に位置するようなものであろう。