私が定義するいい会社とは、「企業の業績とそこで働く人の働きがいを同時に満たす」ことができる会社であり、社員の「考える」力で問題解決を当たり前のようにやり続けている会社でもある。そこで「考える力」を引き出し鍛えることが避けて通れないのは、日々の業務のなかで生じる短期的な視点、長期的な視点での問題を解決するためには、多様な「知恵」が必要だからだ。商品を開発したり、改善を進めたり、コストを削減したりするのに必要なそれである。

 ただ、事が簡単でないのは、問題解決の研修をたくさんやって「考え方」を学習すれば、考える力が発揮されるようになるわけでもないということだ。いくら研修で「考え方」を教え込んでも、「問題解決の環境」が整っていないところでは、そもそも考えようというモチベーションが働かないから、そのときだけのお勉強で終わってしまう。一過性の刺激だけでは結局、考える力は鍛えられない。従って、本当に考える力を鍛えようと思えば、モチベーションを呼び起こし問題解決を可能にする「環境」をつくることが前提条件になる。

 なかでも、「経営と社員との信頼関係」はどうなっているのかが、現実には最も重要な環境ファクターになってくる。経営と社員との信頼関係がないところでは問題解決のサイクルを回すどころではないからだ。そして、もう一つ大切なのは、「問題はあるのが当たり前、見つけてなんぼだ」という、問題解決のモチベーションを喚起する考え方が、会社のなかでどれくらい当たり前(軸)になっているのかという点である。
 このことを頭に置いて、具体的な話に移ろう。段ボール製造機器メーカーであるISOWA(愛知県春日井市)を取り上げたい。

反省室もあった「昭和」な会社

 問題解決を可能にする環境づくりの前提条件となる「経営と社員との信頼関係」がISOWAにおいて、どのようにして築かれてきたのかを見ることから始めてみよう。

 ISOWAは90年近い社歴を持つ古い同族企業で、現社長の磯輪英之氏が四代目である。9年前、英之氏の社長就任直後に初めてこの会社を訪問したときに私が持った印象は、正直なところ、世間でよく見かける普通の中小企業と特に変わるところはなかった。社員の表情はお世辞にも明るいとは言えなかったし、後で聞いたところによれば、そのころは社員が「反省室」と呼ぶ部屋もあったそうだ。当時のISOWAはどこにでもある同族のオーナー企業の一つだったということだ。

 9年前、専務から満を持して社長に就任した英之氏が風土改革を基盤とした経営改革に取り組み始めた。ISOWAの風土改革はあくまでも“社長発”というところが特徴だ。